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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「リベンジ・オブ・ザ・グリーン・ドラゴン」

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 (原題:Revenge of the Green Dragons)傑作「インファナル・アフェア」のアンドリュー・ラウ監督が参画し、マーティン・スコセッシまでもが製作に関わっているわりには、薄味な印象を受ける。これは筋書きの図太さに対してキャストの存在感や描写の力強さといったものが不足しているためで、要するにプロデュースの拙速ばかりが目立つ結果になってしまった。これでは評価できない。

 80年代は中国において民主化運動に対する圧力が強まり、それと連動してアメリカへの移民が激増した時代である。その大半が不法入国で、本作の主人公である10歳の少年サミーもそのひとりだ。渡航中に親を亡くして孤児となったサミーは、同じ年ごろのスティーヴンと共にニューヨークのクイーンズ地区にある中華料理店で働き始める。とはいえ環境は劣悪で、彼らは辛酸を嘗めるばかりで将来への希望が全く持てない。

 ある日2人はひょんなことから犯罪組織“グリーン・ドラゴン”に引き抜かれ、ボスからこの国で成り上がるためにはギャングになるしかないと教えられる。時は流れて青年になったサニーとスティーヴンは組織での仕事もソツなくこなすようになっていたが、香港からやってきた歌手のテディとその娘ティナと出会ったことから、2人の運命は大きく変わっていく。一方、密入国斡旋のシンジケートを追うべくFBIも動き出していた。

 穏やかで理性的なサミーと血気盛んなスティーヴン、凶暴なボスとそのまた上の血も涙もない大ボス、厳しい現実に翻弄される娘など、登場人物の配置は申し分ない。しかし、演じている連中が弱体気味で少しも感情移入できないのだ。ジャスティン・チョンやケビン・ ウー、ハリー・シャムJr.やシューヤ・チャンといったキャストに知っている顔は見当たらない。もちろん無名でも作品のカラーに負けないほどの力量を発揮していれば文句はないのだが、どいつもこいつも軽量級で記憶にも残らない(FBI捜査官としてレイ・リオッタが出てくるのだが、あまりドラマに絡んでこない)。

 こういった面々がいくらヘヴィな境遇に追いやられても、観ている側としては“関係ない”とばかりに冷ややかな視線を送るしかないのだ。まあ確かに当時のニューヨークの犯罪事情や、白人が殺されなければ捜査当局は動かないといった事実が紹介されているのは興味深いが、それだけでは映画一本を支えきれない。

 暴力描写はかなり激しい。しかし血糊の多さにもかかわらずインパクトに欠けるのは、演出の気合が入っていないせいだ。実話の映画化らしいが、それ相応の切迫感というものは最後まで感じられなかった。取って付けたようなラストも盛り下がるばかりだ。

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