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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「百日紅 Miss HOKUSAI」

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 全然面白くない。絶賛している評論家もけっこういるようだが、どこに目を付けているのだろうか。アニメーションでは定評のある原恵一監督作ながら、ここには才気のカケラも見当たらない。いつもの彼の映画とは違い、原作があって脚本も別の者が手掛けていることの影響もあるのだろうが、とにかく惨憺たる出来だ。

 杉浦日向子の同名コミックの映画化。江戸後期、浮世絵師・葛飾北斎の娘のお栄と、彼女を取り巻く人々との触れ合いを描く。一本芯の通ったストーリーがあるわけではなく、展開はスケッチ風で淡々としている。別にそれが悪いということではないが、あまりにも内容がなさ過ぎるのだ。



 ヒロインは妙齢ながら結婚もせず、父親の製作活動のアシスタントとして仕事に精を出しているが、その割には絵に関する主張や思い入れは何も感じられない。困ったことに彼女だけではなく、父の北斎やその弟子の善次郎、絵を扱う業者や顧客に至るまで、一人として浮世絵を特別に愛でている様子は見られない。

 ならばそれ以外のモチーフに何か興趣があるのかというと、そうではない。強いて挙げればお栄の妹であるお猶の恵まれない境遇と、それに対する北斎の接し方であろうか。しかしながら、そのエピソードも殊更盛り上がるようなものでもなく、不必要に薄味に仕上げられている。

 あとはお栄の恋愛沙汰に関する及び腰な態度や、浮世絵をめぐる妖怪騒ぎぐらいだが、それらにしたところで大して話にコクもキレも無く、漫然と流していくのみ。90分という短い尺だが、中盤ぐらいでは退屈すぎて眠くなってきた。そもそも、どうして本作が百日紅(さるすべり)という花が題名になっているのかよく分からない(何の小道具にもなっていないではないか)。



 まずは主人公と父の北斎の、狂気にも似た求道者ぶりを見せつけるべきであった。筆の動き一つで異世界を創出するという、稀代の絵師の力量を表現しないで映画化する意味などあるわけがない。この親子を描いた作品としては他に新藤兼人監督の快作「北斎漫画」(81年)があるが、あれには到底及ばない。

 映像面でも見るべきものはまったく無い。美しくはないし、思い切った構図も無いし、画面の奥行きもまるで感じられない。キャラクターデザインも平凡。ヒロインの声をアテる杏をはじめ、松重豊や濱田岳、高良健吾、筒井道隆、麻生久美子と多彩な面子を用意してはいるが、持ち味を出しているとは言い難い。そして決定的にヒドいのが音楽。私の大嫌いな椎名林檎が楽曲を提供し、しかも映像とは全然合っていないガチャガチャとうるさいロックサウンド。鑑賞後の印象は最悪である。

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