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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「アメリカン・ヒストリーX」

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 (原題:American History X)98年作品。全編に渡って幾分図式的な展開が鼻につくが、この頃のアメリカ映画の中では気合いが入ってる方だと思う。それまでCMの制作に携わっていたトニー・ケイの初監督作品だ。

 カリフォルニアの高校に通うダニーは、ある日校長から呼びつけられる。彼の提出したリポートに問題があるというのだ。その内容はヒトラーの「わが闘争」をテーマにするものだった。実際にダニーはネオナチのグループに属し、校内では黒人の生徒達と仲違いをしていた。校長は改めてダニーに彼の兄デレクについてのリポートを出し直すように命じる。

 デレクは白人至上主義者で、黒人を殺して服役していたが、そんな彼が出所して家に帰ってくる。ところがデレクは、以前とは打って変った穏やかでリベラルな考え方を持つ人間になっており、兄を尊敬していたダニーは愕然とする。

 最初は“バリバリのネオナチが、3年ばかり臭いメシ食っただけで真人間になるわけないだろ”なんて思ったが、よく考えればこれは“極右思想なんて3年で転向できるほど底の浅いものだ”ということなのだろう。そんな“底の浅い思想”に多くの者が絡め取られてしまうほど、アメリカ社会は殺伐としている。

 人間とは悲しいもので、逆境に追いやられると“本当の敵”を見失い、卑近な事柄に拘泥するあまり“目の前にいる敵(らしきもの)”のことしか視界に入らなくなる。すべての元凶はこの“手近な敵”であり、こいつをやっつければ全てうまくいくと決めつける。社会的な差別や偏見はこのようにして生まれるのだが、アメリカの場合は有色人種という“(白人からすれば)見た目から違う者たち”が身近にいることが問題を深刻化させている。

 つまりは失業や貧困に悩む若い白人たちが、そのルサンチマンを吐き出す先を求めている状況にあって、本作で扱われているKKKのような反社会的集団がそれらの受け皿になってしまうのだ。不遇な家庭環境にあるダニーがそれに心酔してしまうのは、無理からぬことだ。映画は兄弟の確執の果てに、救いようのない筋書きをも提示する。

 物語の構図がいささか紋切り型になってしまったのは少し不満だが、これはこれでインパクトが大きい。兄弟に扮するエドワード・ノートンとエドワード・ファーロングは好演。ケイ監督の仕事ぶりはスムーズで、CM畑の出身者にありがちな余計なケレンが無いのも良い。また彼は撮影も兼務しているが、こちらの方も達者だ。

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