(原題:The House of Sand and Fog)2003年作品。アメリカ社会を“外から見た”ような冷徹な視線が印象的な映画で、見応えがある。アカデミー賞3部門の候補になるなど、評価も高い人間ドラマだ。
夫との仲が上手くいかなくなって別れたキャシーは、今は父が遺した海辺の家で一人暮らしをしている。生活は苦しいが、遠方に住んでいる母にも離婚したことを言い出せない。そんな中、わずかな税金未払いにより当局側に家を差し押さえられ、競売に掛けられて他人の手に渡ってしまう。新しい持ち主は、アメリカに亡命したイランの元軍人ベラーニの一家だった。彼は故国では恵まれた立場にあったが、今は肉体労働で糊口をしのぐしかない。それでもこの家に住むことを選んだのは、彼がイランで持っていた別荘に環境が似ているからだった。
一方、差し押さえ自体が行政側の手違いであったことことを知ったキャシーは、警官のレスターの力を借りてベラーニに家を返してもらうように要求するが、当然ながら応じてもらえない。両者の対立はエスカレートし、やがて事件が起きる。
公開当時には“誰も悪人がいないのに登場人物全員が不幸になる話”との評もあるようだが、そんなことはない。この映画で一番悪いのはロン・エルダード扮する落ちこぼれ警官である。
税金未納で家を追われたジェニファー・コネリー演じる若い主婦とねんごろになり、銃を振りかざして現入居者のイラン人家族を脅迫、果ては人質を取っての暴挙に至る。ハッキリ言ってコイツがいなければ事件は丸く収まったはずである。本作品はこの警官に代表されるような“うだつの上がらない白人貧困層の八つ当たり的な人種差別”を描いているのだと思うが、逆にそれがイランから来た元軍人一家の毅然とした態度をも強くイメージ付けることになる。
夫婦に扮するベン・キングスレーとショーレ・アグダシュルーの演技は素晴らしく、故郷を追われた身の辛さと望郷の念が痛いほど伝わってくる。なお、監督のヴァディム・パールマンもウクライナ出身の“異邦人”で、こういう“貧すれば鈍する”ようなアメリカの(豊かではない)庶民の実相を容赦なく描くあたりも納得出来た。
それにしても、この頃のJ・コネリーは“ロクでもない男と付き合って苦労する女”の役がすっかり板に付いてきたように思った(笑)。ジェームズ・ホーナーの音楽とロジャー・ディーキンスの撮影も要チェックだ。