くだらない。観る価値なし。豪華なキャストを集めていながらこのような低劣な映画しか撮れないとは、久々に監督を担当した松尾スズキの腕も鈍ったとしか思えない。とにかく、今年度屈指のワースト作品である。
東京の銀行に勤めていた高見武晴は、不況で取引先が辛酸を舐めるのを何度も目の当たりにし、お金アレルギーになってしまった。仕事を辞めた彼は、今度はお金を1円も使わない暮らしを求めて東北の寒村に移住する。しかし当然のことながら、どんな田舎でもジヌ(当地の言葉で銭をあらわす)が無ければ生活できない。
危うく野垂れ死にするところを助けてくれたのが、世話好きな村長とその美人妻。村長が経営する万屋で雇ってもらい何とか糊口を凌ぐことが出来た武晴だが、村は隣町との合併騒動の真っ最中で、彼も否応なくそれに巻き込まれてしまう。いがらしみきおによる漫画「かむろば村へ」(私は未読)の映画化だ。
まず、主人公のお金アレルギーをネタにしたギャグが数えるほどしかないのは不満。そして村長はヤバい経歴を持った“わけあり”の人物らしいが、それがどうして自治体の首長の座に就いていられるのか、まったく説明されていない。村長の妻をめぐる関係性はハッキリと示されておらず、彼の過去を知る謎の男の扱いもまるで煮え切らない。
村人から“神様”として崇められている老人が何回も思わせぶりに登場するが、何をしたいのか意味不明。そもそも、武晴を中心にドラマが展開されるのが当然であるにも関わらず、彼は狂言回し以下の存在に過ぎず、さりとて村長をはじめとする他の連中に話を引っ張っていけるだけの存在感は付与されていない。結果として、ストーリーの中心が空洞のまま上映時間だけが無駄に過ぎていき、観る側はアクビを噛み殺すだけということになる。
松尾監督の演出はまるで足元が覚束ない。繰り出すギャグはすべて不発。コメディタッチだと思っていたら、ヘンにシビアで残忍なところもあり、中途半端な印象しか受けない。一方では登場人物の大仰な新劇調の物言いや立ち回りなども目立ち、どうやら演劇のメソッドを(悪い意味で)引きずったまま映画作りに臨んだようで、観ていて不愉快になる。極めつけはラストの主人公の不用意なセリフで、唖然となるほどヒドい。
武晴に扮する松田龍平をはじめ、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、荒川良々、中村優子、西田敏行という多彩な出演陣は松尾の顔の広さを如実に示しているが、終わってみればただの“顔見世興行”だ。映像も音楽も舞台セットも特筆するようなものは無し。何のために作られたのか分からないようなシャシンである。