(原題:Chef)面白かった。“風采の上がらない中年男と利発な子供”という鉄板の設定と、ロードムービーの組み合わせ。それにグルメ映画のテイストが加われば、誰がどう見たって失敗作になるはずがない。これまで活劇映画を中心に手掛けてきたジョン・ファヴロー監督としても、会心作と言えるのではないだろうか。
ロスアンジェルスにある有名レストランのシェフであるカール・キャスパーは、腕は良いが我が強くて敵を多く作るタイプ。創意工夫する余地がないマンネリなコース料理ばかり作らされることに腹を立て、オーナーとケンカした挙げ句に店を飛び出してしまう。再就職先などすぐに見つかると思っていた彼だが、すぐに現実の厳しさを思い知らされる。
仕方なく別れた妻の元の旦那を頼ってマイアミまで落ち延び、何とか中古のフードトラックを譲ってもらってサンドウィッチの移動販売を始めることにする。手伝ってくれるのは元の職場で彼を慕っていた助手と、カールの小学生の息子パーシー。こうして彼らはフードトラックを駆って、フロリダからロスまでの大陸横断の旅に出るのであった。
口では偉そうなことを言うが、羽振りの良い元のカミさんに引け目を感じ、如才ない息子からもやり込められる主人公像がケッ作。だが、そんなカールでも一応は人の親だ。子供に対しては自分なりに社会人としてのケジメをしっかりと教え込んでゆく過程には説得力がある。たぶん夏休みが終わった頃には、パーシーも一回り大きくなっていることだろう。
カールのフードトラックは初めはマイアミ名物のキューバサンドをメインに扱うが、旅を続ける間に各地の郷土料理の要素を加えていく。さらに興味深いのが音楽の扱いだ。フロリダではサルサ、ルイジアナに入るとディキシーランド・ジャズ、テキサスではサザン・ロック、そして目的地ではウエストコースト・サウンドが高らかに響き渡る。これはアメリカ土着の文化を再確認する旅でもあったのだ。
ファヴローはカール役として主演も勤めるが、レストラン支配人役にダスティン・ホフマン、女友達としてスカーレット・ヨハンソン、他にロバート・ダウニー・Jr.までも顔を揃えるという豪華さで、この監督の顔の広さを確認出来る。ジョン・レグイザモやソフィア・ベルガラらの他の面子も良い。
そして特筆すべきは料理がとても美味しそうに撮られていること。最近の映画では「深夜食堂」と双璧だろう。序盤のコース料理よりもファストフードに近いサンドウィッチの方が旨そうなのは、作者の好みかもしれない(笑)。それにしても、アメリカ政府がキューバとの国交回復に向けて動いている最中に公開されるとは、いかにも意味ありげである。