さっぱり面白くない。仕込みも作りも素人臭く、とても映画館でカネ取って見せられるような代物ではない。意味も無く褒め上げている評論家は、いったいどこに目を付けているのやら。とにかく、とっとと忘れてしまいたい作品である。
奥能登の海辺の寒村に、東京からやってきた女・岬がコーヒー販売店を開業する。彼女はこの土地の出身で、子供の頃に両親が離婚した後に母親に引き取られて地元を離れ、漁師だった父親は数年前に海で行方不明になっていた。岬はこの地に居を構えれば、いつか父親が帰ってくるのではないかと淡い期待を抱いている。
店の向かいの(開店休業中の)民宿には、シングルマザーの絵里子が幼い子供2人と共に暮らしていたが、絵里子は生活のため金沢まで出向いて風俗まがいの仕事をしているため、留守がちだった。見かねた岬は時折子供たちの相手をするのだが、絵里子は“大きなお世話だ”とばかりに食って掛かる。だが、絵里子と付き合っていた男が狼藉沙汰に及んだことをきっかけに、2人の女の距離は縮まっていく。
とにかく設定がデタラメだ。岬が開いた店はなぜか当初から繁盛するのだが、その理由が説明されていない。東京ではどういう商売をしていたのか、一切不明。さらには彼女の暮らしぶりには生活感が無い。だいたい、ネット通販で顧客を確保しているはずなのに、パソコンが一回も画面に登場しないのは噴飯ものだ。
荒んだ生活をしていた絵里子が、いくら交際相手の外道ぶりを再確認したとはいえ簡単に“いい人”になってしまうのにも閉口するが、父親の消息が分かりかけてきた途端に逃げ腰になる岬にも呆れる。
画面構成は平板で、能登の厳しい自然はほとんど描かれておらず、季節感のまるでない展開には脱力するばかり。それでも出てくるコーヒーが旨そうならば大目に見る点もあったが、まったく言及されていない。客にただ“美味しいね”と言わせるだけというのは、手抜きである。極めつけは、前触れも必然性もなく唐突にやってくるハッピーエンドもどき。観客をバカにしているとしか言いようがない。
台湾人である監督のチアン・ショウチョンは、かつての巨匠ホウ・シャオシェンに師事したらしいが、残念ながら力量は師匠の足元にも及ばない。いつもは持ち前の演技力でドラマを引っ張っていく岬役の永作博美も、かくも脚本と演出が低調では仕事が出来る余地が無い。村上淳や永瀬正敏、浅田美代子といった脇の面子も手持無沙汰のようだ。
絵里子に扮しているのは佐々木希だが、相変わらず演技がヘタだ。しかしながら、かなり努力している様子はうかがえるので、あまり嫌いにはなれない。少なくとも、大根のくせに有名女優ヅラしている堀北某や長澤某、榮倉某といった同世代の連中よりはいくらか好感が持てる(笑)。