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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「はじまりのうた」

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 (原題:Begin Again )ストーリー自体は大したことはない。しかし、劇中で使われる楽曲の扱い方には非凡なものを感じた。ジョン・カーニー監督の前作「ONCE ダブリンの街角で」は観ていないが、高度な音楽的センスはこの作者の持ち味なのだろう。その意味で、観る価値はある。

 イギリスからニューヨークへとやって来たシンガーソングライターのグレタは、恋人のデイヴに裏切られて失意の日々を送っていた。一方、音楽プロデューサーのダンは昔は羽振りが良かったが、今はヒット曲を手掛けることが出来ず、ついには自分が共同経営者として設立した事務所からリストラされてしまう。そんな二人がライブハウスで出会い、グレタの歌に惚れ込んだダンは彼女をデビューさせるべく東奔西走する。そんな中、ミュージシャンとして売れるようになったデイヴは、グレタとヨリを戻したいような素振りを見せ始める。

 グレタを挟んだダンとデイヴの三角関係(のようなもの)の成り行きには大して面白味があるわけではない。そもそも、この3人は恋愛の修羅場を潜る気もない。だから作劇に対しては極めてライトな印象しか受けないのだが、これはこれで良いと思う。本作の主眼は入り組んだ色恋沙汰ではなく、音楽と街(ニューヨーク)そして人々との関係性なのだ。

 あまり金の無いダンは、グレタのデモテープを作るために、街角で次々とゲリラレコーディングを敢行していく。音楽が街の風景とシンクロし、清新なバイブレーションを起こしていく様子は、人々の生き方に音楽が深く根付いていることを鮮やかに示していて面白い。中でもグレタとダンがDAPでスティーヴィー・ワンダーの「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」を聴きながら街を歩き、そのままクラブになだれ込んで踊るシークエンスは最高の盛り上がりを見せる。

 グレダを演じるのはキーラ・ナイトレイだが、正直言って歌は上手くない。だが、珍しく現代劇においても可愛く撮られており、自前の演技力によってそれほど違和感もなく見ていられる。ダンに扮するマーク・ラファロも食わせ者の中年男を楽しそうに演じており、ダンの娘役のヘイリー・スタインフェルドは「トゥルー・グリット」に続いて存在感を発揮している。そしてデイヴ役として人気ロックバンドのマルーン5のアダム・レヴィーンが友情出演。優柔不断な役どころを上手く演じ、ソウルフルな歌声も披露しているのは見逃せない。

 登場人物たちが野外でぶっつけ本番の収録に挑むくだりを観ていると、以前このブログで紹介したスーザン・ケイグルのファースト・アルバム「ザ・サブウェイ・レコーディングズ」を思い出した。そういえば、あのアルバムの録音場所もニューヨークだ。ヤーロン・オーバックのカメラは街の名所旧跡もカバーしており、観光気分も味わえる。

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