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Channel: 元・副会長のCinema Days
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後藤忠政「憚りながら」

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 かつて山口組系列の武闘派組織であった後藤組を率い、その後引退して今では天台宗系の寺院の僧侶になっている後藤忠政が“現役”だった頃を綴った自叙伝だ。極貧の子供時代から、長じて愚連隊を結成し、やがて“本職”にスカウトされる。後藤組結成以後の創価学会との攻防や山一抗争、政財界との交流などが描かれ、紹介される事実自体はけっこう興味深い。

 しかし困ったことに、それらを熱心に語れば語るほど読み手は“ヤクザというのは、どうしようもない連中だな”というネガティヴな印象しか受けないのだ。そして、こんなゴロツキがどの面下げて仏門に帰依出来るのか、そのあたりの厚顔無恥ぶりを見せつけられるに及び、ウンザリする。



 とにかくこの男の“自分はムショで十分お勤めを済ませてきたから、今は完全に無罪だ”と言わんばかりのシンプル極まりない思考形態には呆れるばかり。悪辣なことを山ほどやっていたはずだが、それに対する反省の念は微塵も無い。

 肝臓移植の順番に割り込んだことを得々と話し、カタギの市民が襲撃されたことを“当然だ”と言ってのけ、宗教関係者を脅迫したことをドヤ顔で自慢する等、どう見ても著者は一般ピープルのメンタリティとは完全に一線を画した歪んだ性根の持ち主である。しかも、ところどころに説教じみたフレーズが挿入されているのは失笑するしかない。

 こんな奴が取って付けたように東日本大震災の復興支援に関与しているのというのは、被災地にとってありがた迷惑ではなかろうか。読み終わって、結局ヤクザはどう転んでもヤクザであり、人間のクズでしかないことがよく分かった。

 余談だが、後藤忠政と対立した元読売新聞社会部記者のジェイク・エーデルスタインが2009年に発表したノンフィクション「トーキョー・バイス」の映画化の話があったが、製作はどの程度まで進んでいるのだろうか(主演はダニエル・ラドクリフ)。夜郎自大な内容の本書よりも、そっちの方が数段面白そうである。

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