(原題:DEVIL'S KNOT)事実に基づいたセンセーショナルな題材を取り上げているが、観た印象はかなり薄味。やはりこれは“評論家による後講釈”みたいな、不必要に“引いた”スタンスに問題があるのだろう。まあ、この監督(アトム・エゴヤン)の作品では珍しいことではないが・・・・。
93年のアーカンソー州ウェスト・メンフィスで、3人の小学生の失踪事件が起きる。親や地域住民は無事を願うが、その思いを裏切るように数日後3人の惨殺死体が発見される。事件に関係していると思われる不審者の目撃情報は相次ぐものの、いずれも決め手に欠ける中、当日3人と行動を共にしていたという子供の証言により、十代の若者3人が容疑者として浮上。警察は彼らを犯人と断定し逮捕するが、そこに不自然さを感じた調査会社のロン・ラックスは独自に調査を開始。一方、被害者のひとりの母親パムも、この決着のつけ方に納得してはいなかった。
逮捕された3人には補導歴があり、しかもヘヴィメタや黒魔術にハマっているという、封建的な南部の土地柄からすれば最も忌避されやすいキャラクターの持ち主だ。大事件が起きれば真っ先に犯人に仕立て上げられる環境がそこにはある。その欺瞞性を告発したいという製作の動機はあったのだろう。
しかし、どうも御膳立てが上等ではない。何より物語の中心になるべきロンのプロフィールがほとんど語られていない。どうしてこの事件に首を突っ込んだのか。どんな考えを持ち、何をしたいのか、まるで分らない。セリフでは“不正は許さない”みたいなことを述べるが、職域を逸脱したような行動を取る動機付けにはなっていない。もっと切迫した事情があったはずなのだが、映画ではほとんど見えてこないのだ。
さらに言えば、閉鎖的な町の雰囲気も表面的にしか捉えられていない。何が起こるか油断ならないような、不穏な空気の描出があってしかるべきだが、まるで不発だ。裁判の場面も大して盛り上がらず、真犯人と思しき者の動機さえロクに暗示もされていない。ちなみに、
この事件はまだ完全に解決してはいない。それだけにもっと迫真性のあるモチーフがいくらでも提示できるはずだが、何もやっていない。通り一遍で、作劇の焦点が全然見えてこないような映画である。存在価値があるのかどうかすら疑わしい。
ロン役のコリン・ファース、パムに扮するリース・ウィザースプーン、共に大して印象にも残らない。本国では客が入らず、評論家からのウケも悪かったそうだ。すでに示唆に富んだドキュメンタリーがいくつか製作されていたという背景もあるが、この出来栄えでは不評も仕方がないと思う。