感銘を受けた。小津安二郎監督の代表作「東京物語」(1953年)を山田洋次が独自に“料理”した作品だが、同じような題材でも、作る者と時代が違えばこうも味わいが異なるものかと、当たり前のことを今さらながら痛感する。もちろん現時点で“リメイク”する以上、今日性の付与が不可欠になるのだが、山田監督はそのあたりは抜かりが無い。まさしく現在観るべき映画である。
瀬戸内海に浮かぶ島から子供達に会うために久々に上京してきた平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)だが、医師である長男(西村雅彦)の生活も、長女(中嶋朋子)が営む美容院の状況も、両親をゆっくりともてなす余裕には欠けている。
そんな中、とみこは正業にも就かずフラフラしている次男(妻夫木聡)から婚約者(蒼井優)を紹介される。 頼りないと思っていた彼が、意外にしっかりとした将来へのヴィジョンを持っていることに嬉しくなったとみこだが、そんな彼女を突然の不幸が襲う。
小津の「東京物語」は随分と残酷な話であった。人間は皆孤独である・・・・というテーマを究極の様式美で何度も映像化していた小津だが、当然のことながら山田監督のスタンスは違う。個々の孤独を乗り越えて人間同士の絆を再構築しなければならない。ましてや大震災という試練を受けた現代だからこそ、その青臭いまでの主題に血が通う。
本作に出てくる周吉夫婦の子供達は「東京物語」のそれよりもずっと人情味がある。田舎から出てきた両親のことを“やれやれ、大変だなぁ”と思いつつ、親に対しての配慮は怠らない。また実の子供だけではなく、長男の妻(夏川結衣)や長女の夫(林家正蔵)でさえ、パートナーの両親に何とか快適な時間を提供しようと腐心している。「東京物語」での子供達のように邪険な態度を隠さず、わずかに気を遣ってくれたのが死んでしまった次男の未亡人だけだったという、殺伐とした展開には決してならない。
この映画は本来ならば2011年に製作に着手する予定だったらしい。しかしちょうどあの震災が発生し、山田監督はそれから約1年に渡って被災地に訪れ、新たに脚本を書き直したとのこと。だから劇中には震災にまつわるモチーフが散りばめられているが、ハッキリ言って作劇上でうまく機能しているとは思えない。時として取って付けたような感じになることもある。
しかし、それは決して不快ではない。それどころか、作者の真摯な気持ちを汲み取ることが出来て、しみじみと心に染みてくるのだ。震災のボランティア活動で知り合ったという次男とその恋人の描き方は、とても爽やかで明るい。一人で日々を送ることになる周吉の今後も、決して暗いものではない。小津の作品における荒涼とした“滅びの美学”とは違う、未来に向けての希望を前面に出した作劇に、観ていて温かい気分になる。キャストは皆好演。久石譲の音楽も素敵だ。