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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「映画人口は3倍に増やせる」という記事。

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 昔、キネマ旬報誌において「映画人口は3倍に増やせる」という特集記事が連載されていたことがある。書いていたのは神頭克之というあまり知らないライターだが、目のつけどころは悪くなかったように思う。彼は日本の映画産業が斜陽化しているというのは大ウソであり、そう見えているのは映画館に観客が集まらないだけで、ビデオ等を含めれば現時点で映画そのものを楽しむ人々の数は過去最高を記録していると言う。

 つまり、適正なマーケティングさえあれば潜在的な映画好きを劇場へ呼び戻すことは可能で、観客を3倍に増やすことも夢ではない・・・・との主張である。

 この記事が書かれたのは91年であり、当時はまだ本格的なシネマ・コンプレックスは我が国に存在していなかった(注:マルチプレックスの第一号店であるワーナー・マイカル・シネマズ海老名がオープンしたのは93年である)。だから、現時点の状況に比べると記事の内容は“時代を感じさせる”ものであるのは否めないが、その映画館運営に対する提言は決して古びてはいないと思う。

 以下、神頭が提示した映画館の改革案である。

(1)椅子は座り心地が最高なものを選ぶ。
(2)座席の間隔を広くする。
(3)スクリーンの前の座席は見にくいので撤去する。
(4)すべての座席にカバーをつける。
(5)座席の後ろに網バッグと傘をかけるフックをつける。
(6)CM・予告編は最低限にする。
(7)内装・外装はデラックスにする。
(8)トイレは超デラックスにする。
(9)無料のコインロッカーを設置する。
(10)飲食物は適正な値段にする。
(11)パンフレットは値段を安くして手提げ袋に入れる。
(12)従業員に応対マナーを徹底させる。
(13)終電ギリギリまで映画を楽しめるように、駅ビルと映画館とを合体させる。

 シネコンが市民権を得る前に多数存在していた“サービスが悪くてやる気も無い従来型映画館”がほぼ駆逐された現在、神頭がこの記事を書いた頃よりも確実に状況は良くはなっている。ただし、彼の提言がすべて実現出来たかというと、いささか心許ない。

 上記13項目の中で、達成されたものはごくわずか。相変わらず座席は(改善されたとはいえ)座り心地が最良とは言えないし、劇場によっては間隔が非常に狭いところがある。飲食物は不必要に高価だし、CM・予告編はやたら長いし、トイレは超デラックスには程遠い。

 黒澤明は生前“映画館は最低のサービス業だ!”と言い放ったが、本質は今でもあまり変わっていないのかもしれない。そういえば、シネコン黎明期に業界をリードした外資系の劇場は姿を消し、現在は昔ながらの大手映画会社による経営に戻ってきているケースが目立つ。だとすれば、これ以上の“改善”は望めないという見方も出来よう。

 とはいえ、映画館は我々映画ファンにとって大切な場であることは間違いない。シネコン進出以前の状態から少しは状況は好転したとはいえ、今後も“映画人口を3倍に増やす”ように頑張って欲しいものだ。

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