(原題:Jodorowsky's Dune )すでに80歳を超えてはいるが、今でも元気いっぱいに映画に対する夢やヴィジョンを語る鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督の姿を見ているだけで嬉しくなる。
70年代半ば、フランク・ハーバードが65年に発表したSF巨編「デューン/砂の惑星」(私は未読 ^^;)の映画化を計画したホドロフスキーは、尋常では無いコンセプトと、考えられないスタッフとキャストを揃えて製作に臨もうとするが、諸般の事情で頓挫する。ホドロフスキーのファンだというフランク・パヴィッチ監督が、この真相をホドロフスキー(及び関係者)にインタビューした様子を綴ったドキュメンタリー作品だ。
まず、ホドロフスキーが個人的に交渉して作品関与を取り付けた連中の顔ぶれに驚かされる。メカデザインには著名なSF画家のクリス・フォス、キャラクターデザイン担当にバンデシネアーティストのメビウスことジャン・ジロー、美術にはH・R・ギーガー、音楽にはピンク・フロイドにマグマ、SFX担当にダン・オバノン(当初交渉したダグラス・トランブルは態度が横着だったため却下)、キャストにはサルバドール・ダリやオーソン・ウェルズ、さらにはミック・ジャガーという、何かの冗談ではないかと思うほどの濃すぎるメンバーだ。そいつらを独特なカリスマ性と舌先三寸で口説き落としたホドロフスキーの手腕には、ただ感服するしかない。
しかし、贅を尽くした企画書を送りつけられたハリウッドの各映画会社は、その先鋭的に過ぎるプランに腰が引けてしまう。何しろ当時はまだ「スター・ウォーズ」も作られていなかったのだ。SF作品に大金を投入すること自体がイレギュラーなことであり、しかもハリウッドのメジャー路線とは最も遠い位置にある作風のホドロフスキーによる超長時間の映画に対し、誰も投資しようとしなかったのは、まあ当然かもしれない。
84年になってやっとデイヴィッド・リンチ監督が「デューン」を映画化するが、それは箸にも棒にもかからない駄作だった。その失敗を見届けて“どんどん元気になった!”と笑いながら語るホドロフスキーの茶目っ気が愉快だ。
映画の終盤ではホドロフスキーによる企画書の中のアイデアが後発の映画に次々と取り入れられたことが紹介されるが、それは逆に言えば、優れた企画をお蔵入りにしながら、そのモチーフだけを巧妙につまみ食いするハリウッド・システムの欺瞞を批判していることにもなるのだろう。
フランク・パヴィッチの演出はインタビューのみを淡々と映すだけではなく、企画書のイラストを活かしたアニメーションを挿入させるなど、手を変え品を変えて観客を楽しませようとする姿勢が見られて好感が持てる。第66回カンヌ国際映画祭の監督週間でワールド・プレミア上映され、万雷の拍手で迎えられた注目作。映画好きならば見逃せない。