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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「父」

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 (原題:Pedar )96年作品。監督は「赤い運動靴と金魚」や「太陽は、ぼくの瞳」で知られるイランのマジッド・マジティ。なお、日本では一般公開はされておらず、私はアジアフォーカス福岡国際映画祭の関連上映イベントで観た。

 イラン北部の沙漠地帯にある村。父を交通事故で亡くした14歳の少年は、一家を支えるために南部の海沿いの都会に長いこと働きに行き、稼いだ金を持って久しぶりに家に戻ってくる。しかし、留守中に母親は警官と再婚していた。少年は反発して警官の拳銃を奪い、町に逃げ込む。義父である警官は彼を追うのだが・・・・。



 血のつながらない大人と子供が反発し合いながらも最後には心を通わせるという、今まで数えきれないほど取り上げられた題材も、イラン映画が手掛けると、かくも味わい深い作品になるのかと感心した。戒律の厳しいイスラム社会で、長男のいない間に再婚してしまうという事実は周囲からのプレッシャーが相当キツいはずで、事実、アメリカ映画で同様の素材を扱うと数回の葛藤でカタがつくところをこの映画では徹底的に両者を対立させる(まあ、実際のところアメリカ映画みたいな筋書きでこういう設定が解決するなんてことはないのだが)。

 少年は以前いた家を改築して住み始めるのだが、病気になってしまい、義父のいない間母親が看病し、母親の立場を理解し始める。幼い妹たちとも仲直りし、義父が帰ってきてこれでお互い許し合ってハッピーエンド・・・・とはならない。

 そのあと町に逃げた少年を義父が追いかけ、捕まえてバイクで村まで戻る途中で少年が逃走し、また捕まえて今度は手錠をかけ、次はバイクが故障して沙漠の中を二人でさまようハメになるという、容赦のない展開は一種“犯罪がらみのロードムービー”の様相を呈し、的確な演出もあって画面にグイグイ引きつけられていく。もちろんラストは二人の和解を暗示させるのだが、最後のシーンの映像のキメ具合は(ここでは書けないが)さすがイラン映画だと唸ってしまう。

対立から和解へと向かう登場人物たちにイラン=イラク戦争後のイランの国情を重ね合わせてもいいかもしれない。キャスト、特に子役の使い方は相変わらず神業的で、主演の少年はもちろん、コメディ・リリーフ的な彼の友人の描き方もよろしい。過酷な沙漠や田園地帯などの風景をとらえる映像の美しさも格別だ。

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