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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「エレニの帰郷」

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 (原題:Trilogia II:I skoni tou hronou)2012年に不慮の交通事故でこの世を去った、テオ・アンゲロプロス監督の遺作である。上映時間が約2時間で、彼の作品としては短い方なのだが、とてつもなく長く感じられる。映画史上に残る傑作をモノにしたこともあるこの監督の最後の作品としては、何ともつまらないシャシンだ。

 ギリシアにルーツを持つアメリカの映画監督が、ローマのチネチッタ撮影所で新作を撮ろうとしている。戦後史と彼の両親の物語とをシンクロさせて描くというその映画は、彼自身の家庭の問題もあり。遅々として製作は進まない。一方で、彼の両親が辛酸を嘗めた戦後のヨーロッパの情勢も平行して綴られる。やがて母エレニと彼女を思い続けた男ヤコブ、そしてエレニが愛したスピロスの3人は現代のベルリンで再会を果たすが、それは悲しい別れへの序曲でもあった。



 とにかく、全体的にアイデアが不足している。この監督が得意にしてきた、極端な長回しや時空を超越したストーリー構成などが、現時点では新鮮さも必然性も失い、単なる“スタイル”に堕していることに落胆する。

 しかも悪いことに、過去のアンゲロプロス作品における“冷徹な事実を中心としての作劇”が影を潜め、個人的な記憶と空想とが勝手気ままに挿入されているため、ドラマが弛緩しきっている。別にそれらのモチーフを採用してはイケナイということはないのだが、各要素の境界線がボヤケているために物語を力強く引っ張ることはない。さらに、珍妙な寸劇みたいなのが何度も唐突に現れ、なおかつ“オチ”もなく放置されているような状況では、ストーリーに入り込むことも出来ない。

 スターリンの死をはじめ、ウォーターゲート事件やベトナム戦争、ベルリンの壁の崩壊などの20世紀後半の大事件は芸も無く羅列されるのみで、そこには何ら映画的高揚感を見出せない。こんな有様でラストのスピロスと孫娘とのシーンで“明日への希望を持ちましょう”と言われても、そうはいかないのだ。



 この監督の映画には珍しく、主役のウィレム・デフォーをはじめイレーヌ・ジャコブ、ミシェル・ピッコリ、ブルーノ・ガンツといった有名俳優を起用しているのも違和感を拭えない。中には臭い小芝居に走ろうとしている者もいたりして、観ていて閉口するばかりだ。無名に近いキャストを採用して、ドラマツルギーの練り上げに専念した方が良かったかもしれない・・・・とは言っても、技巧的にマンネリに陥った感のあったこの監督に多くを期待するのも筋違いのような気もする。

 なお、上映中には途中退場者や居眠りをしている客も目立った。この監督の作品をわざわざ見に来るのはかなりの映画好きであるはずだが、それでもこの体たらくなのだから、あとは推して知るべしである。

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