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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「山逢いのホテルで」

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 (原題:LAISSEZ-MOI )ほとんど共感できない映画であり、ずっと居心地の悪さを感じたままエンドマークを迎えた。登場するキャラクターすべてにリアリティが無く、筋書きも絵空事の域を出ない。どうしてこんな建て付けで映画を作ろうとしたのか不明だ。まあ、上映時間が92分と短いことは救いかもしれない。もしもこの調子で2時間以上も引っ張られたならば、マジで途中退場していた可能性大だ。

 スイスアルプスの麓にある小さな町に住む中年女性クローディーヌは、仕立て屋として生計を立てながら障害のある息子を一人で育てている。真面目に見える彼女だが、別の顔を持っていた。毎週火曜日になると彼女は、濃い化粧をして白いワンピースを身にまとい、アンクル丈のブーツを履いて山の上のリゾートホテルを訪れる。そして一人旅の男性客を選んでは、一日だけの関係を楽しんでいた。ところが、ある日出会ったミヒャエルと相思相愛になってしまう。彼はダム建設の技術者で、この地にある巨大ダムのメンテナンスのために派遣されていたのだが、ミヒャエルはクローディーヌに別の場所に行って一緒に暮らそうと持ち掛ける。



 まず、ヒロインの造型にリアリティが無い点が不満だ。都市部ならばともかく、こんな田舎で派手な真似をして、しかも山間部を歩き回るには不適切極まりない服装に身を包んで遠出する女など、いるわけがない。息子がいるということは当然のことながら彼女には夫あるいはそれに相当するパートナーがいたはずだが、それについての言及は完全スルー。

 どうしてクローディーヌが今の土地に暮らして服飾業に携わっているのか、その背景の説明も無い。息子の世話をしてくれる隣家の女性に対して辛く当たったりもするが、単に未熟な女だということが示されるだけで、何ら興趣を喚起しない。彼女の誘いに乗るオッサンたちの振る舞いにも、見どころは無い。

 さらに悪いことに、そろそろ老境に達しつつあるヒロインのリアルな裸身が遠慮会釈なく何度もスクリーンを横切ったりするのだから、参ってしまう。監督マキシム・ラッパズのセンスは最悪だと言えよう。ドラマを作ることを投げ出したようなラストも願い下げだ。

 主演のジャンヌ・バリバールは頑張ってはいるが、それが報われているとは言い難い。また、その他のキャストについてはコメントもしたくない。唯一の救いはブノワ・デルボーのカメラによるアルプスの雄大な風景で、劇場内の空気が変わっていくようだった。

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