(原題:GLADIATOR II)前作(2000年)は第73回米アカデミー賞にて作品賞を獲得するほど高評価で、なおかつ興行収入も大きかったのだが、私は中身をほとんど覚えていない(苦笑)。まあ、たぶん“観ている間は退屈させないが、鑑賞後はキレイさっぱり忘れてしまう”という、いわば娯楽映画の王道(?)を歩んだシャシンだったのだろう。この続編も同様で、スクリーンに向き合っている間は楽しめるが、今後どれだけ記憶に残るかは定かでは無い。ただ、印象的なモチーフはいくつか存在するので、忘却のペースは前回よりは遅いかと思われる。
紀元3世紀初頭、前作の主人公マキシマスの息子であるルシアスは、アフリカ北部の都市ヌミディアで暮らしていた。ところが将軍アカシウス率いるローマ帝国軍が突如侵攻。街は壊滅し妻も失った彼は、マクリヌスという訳ありの男と出会ったことを切っ掛けに、マクリヌス所有の剣闘士となってローマに赴くことになる。
主人公ら剣闘士が競技場で対峙する相手は手練れの戦士だけではなく、巨大なサイや殺人ヒヒなど人間以外も含み、それらとのバトルは賑々しく展開する。そもそも、冒頭近くの海戦のシークエンスだけで観る側を圧倒するだけの迫力があり、特殊効果も前回から20年以上経過しただけの進歩が感じられる。
ただ、私が興味を持ったのはキャラクターの方だ。正直言って、主人公ルシアスは可も無く不可も無し。史劇のヒーローとしてのルーティンをこなしているだけだと思う。それよりも面白いのはマクリヌスだ。かなり屈折した世界観・社会観の持ち主で、それでいて抜け目がない。黒人であることもマイノリティがのし上がっていく背景を強調している。
そして、暴君として知られるゲタ帝とカラカラ帝の扱いも非凡だ。いわゆる五賢帝の時代が終わり、ローマが隆盛から衰退へと向かっていく時代性の象徴としての造型で、中身の薄さを効果的に印象付けられる。前回から連続登板のリドリー・スコットの演出は特段優れているとは言えないが、この前に撮った「ナポレオン」(2023年)よりはマシな仕事をしている。
ルシアスに扮するポール・メスカルをはじめ、ペドロ・パスカルにリオル・ラズ、デレク・ジャコビ、コニー・ニールセンといった顔ぶれはまあ悪くないだろう。マクリヌス役のデンゼル・ワシントンは、さすがの海千山千ぶりを見せつけた怪演。2人の皇帝に扮したジョセフ・クインとフレッド・ヘッキンジャーも難役を上手くこなしている。