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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「アイアンクロー」

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 (原題:THE IRON CLAW )本作を観て、評論家の下重暁子による著書「家族という病」を思い出した。断っておくが、私はこの本を読んでいない。どういう中身であるのか、ネット上に紹介されているアウトラインしか知らない。だが、このタイトルが妙に“刺さる”鑑賞後の感触ではある。ともあれスポーツを題材とした映画としては、かなりの異色作として記憶に残る内容だ。

 70年代までは強豪プロレスラーとして知られたフリッツ・フォン・エリックは、80年代になるとケヴィンとケリー、デイヴィッド、マイクら息子たちを跡継ぎとして育て上げようとしていた。父親の期待に応えて兄弟は次々とプロデビューするが、世界ヘビー級王座戦への指名を受けた三男のデイヴィッドが日本遠征中に急死したのを皮切りに、フォン・エリック家には次々と悲劇が降りかかる。そしていつしか、彼らは“呪われた一家”と呼ばれるようになっていく。



 私が子供の頃は、テレビのゴールデンタイムにプロレスの中継が放映されていた。そこでジャイアント馬場やアントニオ猪木らを苦しめていた外人レスラーの一人が、フリッツ・フォン・エリックだった。その必殺技“アイアンクロー”は見るからに相手にダメージを与えそうで、強烈な印象を受けたものだ。しかし、彼の家族が不幸に見舞われていたことは、この映画を観るまで知らなかった。

 フリッツは確かにカリスマ性を持ったレスラーだったが、何も息子たちに過度なスパルタ教育を施したわけではなく、理不尽な家庭内暴力が罷り通っていたわけでもない。単に父親が有名レスラーだったから、そんな父親の背中を見て育ったから、自分たちもレスラーになるのが当然だと思って精進していただけなのだ。

 そういう、既成事実化した家父長制の元では無意識的に不幸を呼び込むことがあるのだろう。もしも、フリッツが別の生き方を知っていたなら、そしてそれを息子たちに提示していたなら、事態は大きく変わっていたかもしれない。そういう“家族の肖像”を平易なタッチで描いたショーン・ダーキン(脚本も担当)の演出は、大いに納得出来るものがある。

 テキサスの田舎町にあるフォン・エリック家の佇まいは、素朴で野趣に富んではいるが、やはり一般世間からは隔絶した感がある。あえて35ミリフィルムで撮り上げた荒いタッチの映像(撮影監督はエルデーイ・マーチャーシュ)が抜群の効果だ。

 ケヴィン役のザック・エフロンの肉体改造ぶりには驚いた。ジェレミー・アレン・ホワイトにハリス・ディキンソン、スタンリー・シモンズら兄弟に扮した面々の偉丈夫にも感心した。フリッツを演じるホルト・マッキャラニー、実質的なヒロイン役のリリー・ジェームズもイイ味を出している。もちろん試合のシーンもよく練られていて、プロレス好きにもアピールできるだろう。

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