2022年作品。白石和彌監督作としては、マシな方かと思う。少なくとも退屈せずに最後まで付き合えた。しかし万全の出来かというと、そうではない。観終わってから考えると、いろいろと辻褄の合わない箇所があることに気付く。また、別の映画の設定を露骨にパクっている点も愉快になれない。櫛木理宇の同名小説(私は未読)の映画化ながら、まさか原作もこの通りなのかと、気になってしまった。
北関東の三流大学に通う筧井雅也のもとに、連続大量殺人犯で死刑判決を受けている榛村大和から“一度会いたい”という内容の手紙が届く。以前榛村は雅也の地元にあったパン屋の経営者で、当時中学生だった雅也はよく店を訪れていて、榛村とも親しくしていた。拘置所にて雅也と面会した榛村は、自身が犯人とされた一連の殺人事件の中で、最後の事件だけは冤罪だと訴え、犯人が他にいることを打ち明ける。雅也は榛村の担当弁護士のもとを訪れて事件の資料を閲覧すると共に、独自に調査を始める。
冒頭に雅也の祖母の葬儀が映し出され、加えて鬱屈したような彼の学生生活が紹介される。他の登場人物たちも覇気が無く、全体的に沈んだ雰囲気が横溢。この中で凄惨な殺人事件が展開されたという段取りは悪くなく、ダークな方向に振り切った作劇はけっこう引き込まれるものがある。白石監督の仕事ぶりも淀みなくスムーズだ。
だが、榛村の造型はどう見ても「羊たちの沈黙」のレクター博士の物真似だろう。雅也と対峙する構図も同様で何となく鼻白む。そもそも、雅也が法律事務所のバイトの分際で法曹関係者を騙ってフットワークも軽く(?)聞き込みに専念するというストーリーは無理がある。第一、いくら榛村が並外れて狡猾でも、小さな町であれだけの殺戮が実行できるはずがない。一人殺した時点で少年院帰りの彼は真っ先に疑われるはずだ。また、白昼堂々と表通りで被害者を車に押し込んで殴打するというくだりも有り得ない。
映画は勢いよくラストまで駆け抜けるが、最後のエピソードは分かったようでよく分からない。それに、思わせぶりに登場する雅也の両親が大した役割を与えられていないのも脱力する。榛村に扮する阿部サダヲはノリノリでこの役を演じているが、どうにもワザとらしさが拭えない。雅也役の岡田健史(現:水上恒司)は良くやっていたと思うが、宮崎優に鈴木卓爾、佐藤玲、吉澤健、そして中山美穂といった他の面子は印象が薄い。池田直矢のカメラによる暗鬱な映像と、大間々昂の音楽は及第点。なおタイトルはキェルケゴールの「死に至る病」をもじったものだろうが、ハッキリ言って安直だと思う。