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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「山女」

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 題材と作品の雰囲気は悪くないが、釈然としない部分目立ち、個人的には評価しがたい。柳田國男の「遠野物語」に着想を得た作品としては、82年に公開された村野鐵太郎監督の「遠野物語」よりはマシだとは思う。しかしながら、元ネタが逸話や伝承に基づいた一種のファンタジーであっても、ドラマ化する場合はストーリーの整合性は保たれるべきだ。本作はその点が食い足りない。

 18世紀後半の東北地方は冷害に見舞われ、主人公の若い娘・凛の住む村でも食糧難にあえいでいた。しかも、凛の父の伊兵衛は先祖の罪により村人から冷遇されている。苦しさに耐えかねた伊兵衛はある“事件”を引き起こしてしまうが、凛は父の代わりに全責任を負い村を去る。一人で山の奥深くへ進んだ彼女は、そこで半人半獣の不思議な男と出会う。彼こそ村人たちから恐れられる山男だったが、凛はその男と行動を共にするようになる。



 村の状況は厳しいはずだが、どうも全体的に描写が小綺麗だ。もちろん、リアリズムを強調して観る者に過度の不快感を与える必要はないが、この映画には実体感が不足している。山男はどうして以前から村人にその存在を知られ、恐れられていたのか、その事情がハッキリしない。また、どうやって生き延びていたのかも不明。特に東北の冬を乗り切れるだけの備えも無いように見えるのには、違和感を覚えるばかり。そして、勿体ぶって出てきた割にはあまり活躍しないのには脱力する。

 凛の風体はこの時代の人間とも思えないほど身ぎれいだ。他の村人も一応はそれらしい格好はしているものの、役になりきっていないように思える。終盤は伝奇的な展開になるが、それほど劇的でもない。いわば想定の範囲内だ。

 長田育恵と共に脚本も担当した福永壮志の演出は、時代劇としての体裁を整えることより理不尽な村八分の実態やヒロインの境遇等を通して現代にも通じる社会問題を炙り出そうとするかのような仕事ぶりだが、キャストの演技指導の面では腰が据わっていない印象を受ける。

 凛に扮するのは山田杏奈だが、明らかに作品のカラーからは浮いている。2021年公開の「彼女が好きなものは」や「ひらいて」で見せた彼女の強烈な個性が抑制されているようで、観ていて不満だ。永瀬正敏に三浦透子、森山未來、山中崇、川瀬陽太、白川和子、品川徹、でんでんなど芸達者な面子を集めてはいるが、あまり機能していない。とはいえダニエル・サティノフのカメラによる鬱蒼とした山中の風景や、アレックス・チャン・ハンタイの音楽は申し分なく、その点だけは認めたい。

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