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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「見えない目撃者」

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 2019年作品。キャストは頑張っている。ドラマ運びもスピーディーだ。しかし脚本があまりにも不出来である。2011年公開の韓国製サスペンス映画「ブラインド」(私は未見)のリメイクということだが、この企画が持ち上がる際にプロデューサーはシナリオをチェックしなかったのだろうか。それとも、作劇に勢いさえあれば筋書きの欠点など余裕でカバーできると踏んだのか。いずれにしろ、評価しがたい内容だ。

 新人警察官の浜中なつめは、警察学校の卒業式の夜に弟の大樹を車に乗せて帰宅中、事故を起こしてしまう。大樹は死亡し、なつめ自身は視力を失い警察官の道を諦めるしかなかった。それから3年経ったある晩、盲導犬のパルと共に外出中、なつめは車の接触事故に遭遇する。そこで車中から助けを求める少女の声を聞いた彼女は、誘拐事件の可能性を考え警察に通報する。だが、警察は目の見えない彼女の言い分を聞き入れない。納得できないなつめは事故現場で車に接触したスケボー少年の国崎春馬を探し出し、独自に捜査を始める。



 まず、ヒロインが失明する原因になった自動車事故は、完全に彼女の過失だ。新米とはいえ、警察官がやらかすミスとは考えにくい。そして真犯人はどうして初めの接触事故の際に“目撃者”であるなつめと春馬を始末しようと考えなかったのか、大いに謎だ。ハッキリ言うと、犯人は誰なのか早い時点で見当が付く。だが、その先入観を覆すような仕掛けも無い。

 目が見えないため動作の遅いヒロインを、これまたノンビリと歩いて追い詰めようとする犯人。地下鉄の駅に逃げ込んだなつめだが、そこには駅員が一人もいない異世界(苦笑)。当のなつめも、運良く乗り込んだ地下鉄で他の客に助けを求めようとせず、下車した駅にはいつの間にか犯人が待ち構えているという意味不明の展開。

 敵のアジトを突き止めて応援を要請したにもかかわらず、それを待たずに単独で行動する刑事。加えて、銃声が聞こえてヤバい状況になったにも関わらず、あえて敵地に乗り込むなつめと春馬。さらには応援の警察隊が駆けつけるのは要請から数時間も経った後という、あり得ない顛末。まさに、ツッコミどころ満載の中身だ。森淳一の演出は歯切れは良いが、ストーリー自体がこのような有様なので空回り状態。

 主演の吉岡里帆は健闘している。同世代の女優の中ではそれほど演技が上手い方だとは思わないが、それでも必死でやっているのは認めて良い。高杉真宙に大倉孝二、浅香航大、酒向芳、國村隼、松田美由紀、田口トモロヲと、演技が下手な者はいないのだが、話がこの程度なので“ご苦労さん”としか言いようがない。改めて、同様のネタの元祖とも言うべきオードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って」(1967年)がいかに快作だったのか思い知らされた。

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