Quantcast
Channel: 元・副会長のCinema Days
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

「小さき麦の花」

$
0
0
 (原題:隠入塵煙 RETURN TO DUST )映画の中身よりも、本国における反響の方が興味深い。中国では若年層を中心に多くの観客を動員したものの、なぜか突然上映が打ち切りになり、ネット配信も取り止めになったという。このような体裁のシャシンは、通常はミニシアター中心の興行で観客の年齢層も高いというのが相場であり、事実日本ではそうなっているようだ。だが、若者たちの心を掴んだ挙げ句に当局側からと思われる横槍が入った彼の国の状況には、穏やかならぬものを感じる。

 舞台は2011年の中国北西部に位置する農村(ロケ地は甘粛省の張掖市花牆子村)。貧しい農民のマー・ヨウティエは兄の家で暮らしているが、中年になっても独身の居候が家にいるというのは兄としても面白くない。そこで近所に住むツァオ・クイインとの見合いをセッティングし、半ば無理矢理にヨウティエに所帯を持たせる。



 実はクイインには身体的ハンデがあり、やはり家族から厄介者扱いされていたのだ。当初はぎこちなかった二人の生活だが、仕事に打ち込むヨウティエをクイインが献身的にフォローするうちに夫婦としての絆が生まれてくる。しかし、周囲の厳しい状況は彼らが平穏な日々を送ることを許容しなかった。

 中国の農村を描いた作品としては過去に陳凱歌監督の「黄色い大地」(84年)や「子供たちの王様」(87年)、呉天明監督の「古井戸」(87年)などの力作があるが、本作がそれらに比べて殊更優れているとは思わない。展開は平板だし、中盤以降には明らかに無理筋のエピソード(血液型がどうのこうの等)が挿入されてくる。そもそも、無口だが努力家で働き者のヨウティエがどうして今まで独り者だったのか、納得できるだけの説明は無い。

 しかしながら、この映画が本国でヒットした理由も何となく分かる。まず、競争過多で世知辛い風潮に嫌気がさした若い観客たちが、主人公たちの素朴で慎ましい生活に惹かれたから。そして都会と地方との絶望的なまでの格差や、土地収用等に関する行政の不備といった社会問題を容赦なく糾弾したからだろう。特に後者は、本作が公開停止の憂き目に遭った原因かと思われる。

 脚本も手掛けたリー・ルイジュンの演出は淡々としすぎる面があるが、主演のウー・レンリンとハイ・チンに対する演技指導は万全だ。ウー・レンリンは監督の叔父で本職の俳優ではないが、本人に近い役柄を振るというアジア映画得意のパターンが功を奏している。ハイ・チンは何と国民的人気女優とのことで、この役作りには感心するしかない。また、二人が飼っているロバが抜群の存在感を示している。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2422

Trending Articles