(原題:Subway)85年フランス作品。リュック・ベッソン監督がその名を知られるようになった映画で、86年のセザール賞で美術や音響部門でのアワードを獲得している。ただし、内容はほぼ空っぽだ。その代わり、映画の“外見”は目覚ましい求心力を持っている。つまりは中身をあれこれ詮索せず、エクステリアだけを楽しむシャシンと割り切った上で接するのが正しい。
パリ市内で富豪が主催したパーティーの最中に、邸宅の金庫から機密書類が盗まれる。犯人のフレッドは地下鉄の奥深くに潜伏し、富豪の妻エレナに金を持って来させるように要求。だが実はフレッドとエレナは以前は恋仲であり、彼のもとに赴いたエレナは好きでもない金持ちに嫁いだ不満も相まって、再びフレッドに惹かれていく。
序盤に迫力あるカーチェイスが展開し、これはキレの良い犯罪ドラマなのかと思ったら、そこから話は停滞する。警察やエレナの旦那が放った追っ手からフレッドが逃げるという設定はあるものの、主人公2人のアバンチュールみたいなものが漫然と流れるパターンが多くなり、サスペンスは一向に醸成されない。果ては音楽好きのフレッドが他の地下住民たちとバンドを結成し、コンサートを企画するなどという筋違いのモチーフが挿入される。終盤の処理に至っては、まるで作劇を放り出したような弛緩ぶりだ。
L・ベッソンの演出は後年の「ニキータ」(90年)や「レオン」(94年)で見られた躍動感は無く、平板に推移するのみ。しかしながら、この映画の美術や大道具・小道具の使い方は実に非凡である。地上とは違う地下世界の妖しさと独特の空気感の創出は見事だ。的確な照明と色彩が場を盛り上げ、撮影監督のカルロ・ヴァリーニは良い仕事をしている。
主演はクリストファー・ランバートとイザベル・アジャーニで、当時は“旬”の俳優であった2人が放つオーラには思わず見入ってしまう。衣装デザインも申し分ない。さらには使用されている楽曲のセンスの良さにも唸ってしまう。音楽担当は御馴染みエリック・セラだが、ここでもさすがのスコアを提供している。リシャール・ボーランジェにミシェル・ガラブリュ、ジャン=ユーグ・アングラードといった他の面子も悪くない。ジャン・レノがチョイ役で顔を出しているのも嬉しい。