2時間23分という長尺ながら、退屈すること無く最後まで付き合えた。これはひとえに語り口の上手さによる。ストーリー自体は大きな盛り上がりは期待できず、登場人物も何やら煮え切らないキャラクターばかりだが、観る者の共感を呼ぶ内容にまで押し上げているのは、絵空事に終わらせない作者の確かな人間描写の賜物だ。本年度の日本映画の収穫である。
フリーライターの市川茂巳は編集者である妻の紗衣と二人暮らしだが、実は紗衣が担当している若手作家と浮気していることに気付いている。しかし、なぜか彼はその一件に対して怒りも悲しみも湧いてこない。そんな自分に驚いてもいる。ある時、新人文学賞の授賞式の取材に出かけた茂巳は、ひょんなことで受賞者である女子高生作家の久保留亜と知り合うことになる。彼は留亜の受賞作「ラ・フランス」が気に入っており、小説の主人公にモデルがいるのなら是非とも会いたいと話す。
留亜の著作の内容は詳述されていないが、どうやら登場人物は苦労して入手したものを呆気なく捨ててしまうという筋書きらしい。茂巳はその設定に自らの境遇に通じるものを感じたのだろうが、自分の内面をそう簡単に他者の心情に重ね合わせられるはずもない。しかしながら「ラ・フランス」のモデルと思しき留亜の周囲の者たちと触れ合ううちに、次第に“自分は自分でしかない”という普遍的な結論に近付いていく。
茂巳の友人である有坂正嗣は、モデルの藤沢なつと不倫関係にある。そのため正嗣の家庭は修羅場になっているのだが、それも茂巳にとっては彼から見た“風景の一部”でしかない。実は茂巳はかつて小説を一冊上梓しており、ある程度の評判を得たのだが、それ以来書いていない。彼にとっては、すべてのことはその著作の中に置いてきたのだろう。いわば人生から“降りてしまった”主人公と、いまだ人生の現在進行形にある他の者たちとの対比を抑制されたタッチで綴ったのが、本作の身上だと言える。
脚本も担当した今泉力哉の演出は冴えており、長回しを多用した静かな展開でありながら、気の利いたエピソードを連続させて飽きさせない。特に茂巳が初めてのパチンコ屋で戸惑う場面や、留亜とラブホテルに入り2人で延々とババ抜きに興じるシークエンスには笑った。主役の稲垣吾郎は好調で、彼もこういう優柔不断な中年男を違和感なく演じられるようになったのだ。
若葉竜也に中村ゆり、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音、斉藤陽一郎など、キャストは皆良い仕事をしている。個人的に気に入ったのは留亜に扮した玉城ティナで、この年代の女優では屈指の個性派(≒変態派?)である彼女のキャリアを今後も追いかけたくなる。池永正二の音楽も適切で、四宮秀俊のカメラによる柔らかい画調も要チェックだ。
フリーライターの市川茂巳は編集者である妻の紗衣と二人暮らしだが、実は紗衣が担当している若手作家と浮気していることに気付いている。しかし、なぜか彼はその一件に対して怒りも悲しみも湧いてこない。そんな自分に驚いてもいる。ある時、新人文学賞の授賞式の取材に出かけた茂巳は、ひょんなことで受賞者である女子高生作家の久保留亜と知り合うことになる。彼は留亜の受賞作「ラ・フランス」が気に入っており、小説の主人公にモデルがいるのなら是非とも会いたいと話す。
留亜の著作の内容は詳述されていないが、どうやら登場人物は苦労して入手したものを呆気なく捨ててしまうという筋書きらしい。茂巳はその設定に自らの境遇に通じるものを感じたのだろうが、自分の内面をそう簡単に他者の心情に重ね合わせられるはずもない。しかしながら「ラ・フランス」のモデルと思しき留亜の周囲の者たちと触れ合ううちに、次第に“自分は自分でしかない”という普遍的な結論に近付いていく。
茂巳の友人である有坂正嗣は、モデルの藤沢なつと不倫関係にある。そのため正嗣の家庭は修羅場になっているのだが、それも茂巳にとっては彼から見た“風景の一部”でしかない。実は茂巳はかつて小説を一冊上梓しており、ある程度の評判を得たのだが、それ以来書いていない。彼にとっては、すべてのことはその著作の中に置いてきたのだろう。いわば人生から“降りてしまった”主人公と、いまだ人生の現在進行形にある他の者たちとの対比を抑制されたタッチで綴ったのが、本作の身上だと言える。
脚本も担当した今泉力哉の演出は冴えており、長回しを多用した静かな展開でありながら、気の利いたエピソードを連続させて飽きさせない。特に茂巳が初めてのパチンコ屋で戸惑う場面や、留亜とラブホテルに入り2人で延々とババ抜きに興じるシークエンスには笑った。主役の稲垣吾郎は好調で、彼もこういう優柔不断な中年男を違和感なく演じられるようになったのだ。
若葉竜也に中村ゆり、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音、斉藤陽一郎など、キャストは皆良い仕事をしている。個人的に気に入ったのは留亜に扮した玉城ティナで、この年代の女優では屈指の個性派(≒変態派?)である彼女のキャリアを今後も追いかけたくなる。池永正二の音楽も適切で、四宮秀俊のカメラによる柔らかい画調も要チェックだ。