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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「トム・ホーン」

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 (原題:Tom Horn)79年作品。60年代から70年代前半にかけて稀代のアクション・スターとして名を馳せたスティーヴ・マックィーンも、74年の「タワーリング・インフェルノ」を最後に映画製作の現場から一時期離れている。そして久々にスクリーンに復帰した頃に撮られたのが本作だ。しかしながら、往年の活劇編とは完全に趣を異にする大人しすぎるタッチで、公開当時は低評価だったらしい。まあ、正直それほど面白くはないのは確かだが、マックィーンの心境の変化が垣間見えるという意味では、存在価値はあるだろう。

 19世紀末のアメリカ西部で凄腕のガンマンとして知られたトム・ホーンは、訪問先のワイオミング州のハガービルで大牧場主のジョン・コーブルから牛泥棒の駆逐を依頼される。ホーンは早速そのオファーを引き受け、その地域に蔓延っていたならず者どもを一掃する。だが、彼の名声を妬んだ連邦保安官のジョーは、ホーンに少年殺しの濡れ衣を着せて抹殺しようとする。実在した凄腕のバウンティ・ハンターを描いた伝記映画だ。



 とにかく、全体を覆う沈んだ空気には戸惑ってしまう。アクション場面といえば牛泥棒を片付けるシーンぐらいで、あとは主人公を陥れようとする連中の辛気くさい悪巧みや、ホーンが一人で悩んでいる様子などの気勢の上がらない描写が延々と続く。そして、史実通り映画はダウナーな空気を纏ったままエンドマークを迎えるのだ。

 マックィーンは本来内省的で信心深い男だったと伝えられる。往年の華々しいスターの姿は虚像だったのかもしれないし、娯楽映画での仕事が一段落した後に静かな作品をも手掛けたかったという可能性もある。本当のところは分からないが、いずれにしろ一世を風靡した役者でも、そのイメージを生涯引きずることは無いということだろう。ウィリアム・ウィヤードの演出は良く言えば静謐だが、盛り上がりには欠ける。

 ジョン・A・アロンゾのカメラによる茫洋とした西部の荒野や、アーネスト・ゴールドの渋すぎる音楽も相まって、どこかヨーロッパ映画のような佇まいを感じさせる。リンダ・エヴァンスやリチャード・ファーンズワース、ビリー・グリーン・ブッシュ、スリム・ピケンズと共演陣は割と粒が揃っているが、派手なパフォーマンスはさせていない。そのあたりも作品のカラーに合っている。

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