久々に肩の凝らない娯楽編でも読みたいと思い、手に取ったのが本書。何でも、第27回鮎川哲也賞をはじめ『このミステリーがすごい!2018年版』や週刊文春『2017年ミステリーベスト10』における一位、第18回本格ミステリ大賞など、数々のアワードを獲得した話題作らしい。だから幾ばくかの期待を持って接したのは間違いない。しかし実際読んでみたら、賞レースを勝ち抜いた作品が必ずしも面白いとは限らないという、普遍的真実(?)を再確認するだけに終わってしまった。
大学のミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、何かと訳ありの映画研究会の夏合宿に無理矢理に参加するため、同校の“探偵少女”こと剣崎比留子と共に長野県にある湖畔のペンション“紫湛荘”に押しかけた。ところが合宿一日目の夜に一行が肝試しに出かけた際、まさかのゾンビの大群が襲ってくる。どうやら近隣で開催されていたロックフェスティバルで、ゾンビウイルスのパンデミックが発生したらしい。何とかペンションまで逃げ帰った彼らを待ち受けていたのは、これまたまさかの連続殺人事件だった。葉村たちはゾンビの襲撃を防ぎながら、究極的な密室殺人の謎に挑む。
スプラッターホラーと本格ミステリーとの二本立てという仕掛けは珍しいし、主要登場人物が前半早々に退場してしまうのも意表を突いている。ただし、面白いと思ったのはその2点のみだ。あとは何とも気勢の上がらない展開が続く。有り体に言えば、これは推理小説ではなくライトノベルに近い。
ゾンビ出現の顛末には一応目をつぶるとしても、犯人像には無理がありすぎる。もちろん動機は存在するが、それがこれだけの惨劇を生み出した背景だと言われても、到底納得できない。そもそも、ゾンビ襲来という超イレギュラーな事態を犯人が予想できるはずもなく、もしもこのトラブルが無かったらどうやってを自分が疑われずに目的を達成するつもりだったのか全く分からない。
また、肝心のトリックは手が込んではいるが、真に読む者を驚かせるような仕掛けは無い。人物描写も十分ではなく、譲と比留子との掛け合いはまるでラブコメだし、やたらゾンビに詳しいオタク系部員を除けば、どのキャラクターも軽量級だ。とはいえ作者の今村はこれがデビュー作ということで、今後スキルがアップする可能性はゼロではないだろう。そのあたりは留意したい。
なお、2019年に木村ひさし監督によって映画化されている。だが、そんなに話題にならなかったところを見ると、出来の方もイマイチだった公算が大きい。わざわざチェックする必要も無いようだ。