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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「オフィサー・アンド・スパイ」

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 (原題:J'ACCUSE)ロマン・ポランスキー監督作にしては、かなり薄味で淡白な仕上がりだ。もちろん、ハリウッド映画のような単純明快な勧善懲悪法廷ドラマにせよとは言わない。そんな方向性のシャシンならば、この監督が手掛ける必要は無い。しかし、少しはニューロティックで危うい面を挿入しても良かったのではないか。キャストの演技や作品のエクステリアが良好であるだけに、余計に気になってしまう。

 1894年、フランス陸軍大尉アルフレド・ドレフュスは、ドイツに軍事機密を漏洩したスパイ容疑で逮捕され、フランス領ギアナ沖の離島への流刑に処せられる。彼の上司であり諜報部の責任者に就任したピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す証拠を発見。上官に再審を迫るが、ドレフュスがユダヤ人であることから無用な政治的軋轢を避けようとする上層部はもみ消しを図る。ピカールは本件をマスコミにリークし、支援を申し出た作家エミール・ゾラらと共に、腐敗した権力に立ち向かう。実際に起きた冤罪事件“ドレフュス事件”を扱った作家ロバート・ハリスの小説の映画化だ。



 ポランスキーは自らもユダヤ人として戦時中に辛酸を嘗めたこともあり、彼としては珍しくストレートな作劇を狙っているように思える。しかし、それがポランスキーらしさをスポイルしているとも言える。真相に向かってプロットを理詰めで積み上げていくような趣向は希薄で、裁判の内容もあまり掴めない。

 かと思えば、ピカールが不倫しているだの、唐突に決闘のシーンが現れるだのといった、あまり本筋とは関係が無く、さりとて効果的でもないモチーフが提示されるのは愉快になれない。そもそも、法曹界と軍当局およびマスコミとの力関係がどうなっているのか分からず、話自体に面白みが感じられない。極め付けは終盤のドレフュスとピカールとの対面シーンで、当事者の慇懃無礼な態度が目につき、後味は良くない。

 それでもピカール役のジャン・デュジャルダンをはじめ、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリックといった出演陣は良い仕事をしており、パベル・エデルマンによる撮影やアレクサンドル・デスプラの音楽も申し分ない。確かな時代考証に裏打ちされた美術や衣装デザインは万全だ。その意味では観て損はないだろう。

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