(原題:BELFAST )手堅い演出とキャストの確かな演技、そして全編を覆うノスタルジーとリリシズム、さらには背後に横たわる歴史の重み。間違いなく本年度を代表する佳編だと言える。また、現時点での風雲急を告げる世界情勢の中で、この作品に接することが出来るのは実に有意義であると思う。
1969年の北アイルランドのベルファスト。9歳の少年バディは、家族や友人、そして彼の成長を見守る近所の人々に囲まれ、充実した子供時代を過ごしていた。ところが8月15日、プロテスタントの自衛グループの法的連合として設立されたアルスター防衛同盟の構成員たちが、カトリック系住民を迫害し始める。バディの一家はプロテスタントだが、周囲にはカトリック教徒が大勢いる。街では暴動が多発し、楽しかったバディの生活は一変する。ベルファスト出身のケネス・ブラナーによる自伝的作品だ。
映画はそれから98年のベルファスト合意まで続く北アイルランド紛争の実態を詳しくは描いていない。あくまでも子供の視点からの表現に終始するが、それが却って庶民レベルでの状況を活写することになり、映画としては効果的な構成になっている。街中が顔見知りばかりで、何かトラブルが生じても隣近所で助け合う。そんな古き良き下町の風景が、理不尽な暴力により崩れ去っていく。
とはいえ、バディにとっては町中がバタバタしている状況は当初“遊びのパターンが増えた”みたいな捉え方だったのだが、イギリス本土に出稼ぎに出ている父親の立場や、どさくさに紛れて略奪をはたらこうとする友人の態度を見るに及び、次第に事の重要性を認識するあたりが何ともリアルだ。ラストの処理は、バディにとっての“少年時代の終焉 第一章”といった感じで、観る者に切ない気持ちを喚起させる。
ケネス・ブラナーは今回は監督・脚本に専念し、主要登場人物としては出ていない。緯度の高い北アイルランドの風景を活写するためあえて映画の大半をモノクロ映像にした処理も正解で、時折挿入されるカラー映像との対比は鮮やかだ。また、当時のヒット曲やテレビ番組が良い案配で散りばめられている。上映時間が98分と、長尺ではないのもありがたい。
両親役のカトリーナ・バルフとジェイミー・ドーナン、祖母に扮するジュディ・デンチ、敵役のコリン・モーガン、そして子役のジュード・ヒルと、出演者は皆好演。ハリス・ザンバーラウコスのカメラによる美しい映像、そして同郷のヴァン・モリソンによる音楽が素晴らしい。
1969年の北アイルランドのベルファスト。9歳の少年バディは、家族や友人、そして彼の成長を見守る近所の人々に囲まれ、充実した子供時代を過ごしていた。ところが8月15日、プロテスタントの自衛グループの法的連合として設立されたアルスター防衛同盟の構成員たちが、カトリック系住民を迫害し始める。バディの一家はプロテスタントだが、周囲にはカトリック教徒が大勢いる。街では暴動が多発し、楽しかったバディの生活は一変する。ベルファスト出身のケネス・ブラナーによる自伝的作品だ。
映画はそれから98年のベルファスト合意まで続く北アイルランド紛争の実態を詳しくは描いていない。あくまでも子供の視点からの表現に終始するが、それが却って庶民レベルでの状況を活写することになり、映画としては効果的な構成になっている。街中が顔見知りばかりで、何かトラブルが生じても隣近所で助け合う。そんな古き良き下町の風景が、理不尽な暴力により崩れ去っていく。
とはいえ、バディにとっては町中がバタバタしている状況は当初“遊びのパターンが増えた”みたいな捉え方だったのだが、イギリス本土に出稼ぎに出ている父親の立場や、どさくさに紛れて略奪をはたらこうとする友人の態度を見るに及び、次第に事の重要性を認識するあたりが何ともリアルだ。ラストの処理は、バディにとっての“少年時代の終焉 第一章”といった感じで、観る者に切ない気持ちを喚起させる。
ケネス・ブラナーは今回は監督・脚本に専念し、主要登場人物としては出ていない。緯度の高い北アイルランドの風景を活写するためあえて映画の大半をモノクロ映像にした処理も正解で、時折挿入されるカラー映像との対比は鮮やかだ。また、当時のヒット曲やテレビ番組が良い案配で散りばめられている。上映時間が98分と、長尺ではないのもありがたい。
両親役のカトリーナ・バルフとジェイミー・ドーナン、祖母に扮するジュディ・デンチ、敵役のコリン・モーガン、そして子役のジュード・ヒルと、出演者は皆好演。ハリス・ザンバーラウコスのカメラによる美しい映像、そして同郷のヴァン・モリソンによる音楽が素晴らしい。