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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「シラノ」

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 (原題:CYRANO)原作は1897年に発表された、17世紀のフランスの騎士を主人公にしたエドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」であるが、今回の映画化は少しも楽しめなかった。まず、音楽と作劇とが全く合っていない。音楽を担当したアーロン・デスナーとブライス・デスナーは、アメリカの先鋭的インディー・ロックバンド“ザ・ナショナル”のメンバーであり、楽曲自体は決して悪いものではない。しかし、このモダンなロックサウンドが古典的な舞台劇にマッチしているかというと、断じてそうではない。そもそも、この有名な話をミュージカルにする必然性があったのか、大いに疑問である。

 そして、出ている面子が時代劇にふさわしくないのも難点だ。この題材は過去に10回以上も映画化されているが、共通しているのは主人公シラノは大きな鼻を持つユニークすぎる御面相をしていること。ただし、顔以外はいたって普通の男であり、それどころか歴戦の騎士でもあるから腕っぷしも強い。



 ところが本作の主役ピーター・ディンクレイジは、顔は申し分ないが体形がいわゆる“ミニサイズ”なのである。別に“ミニサイズ”自体が悪いということではないが、この体格では戦場で何度も修羅場をくぐった強者だという設定は無理がある。それでも、意外な強さを見せるシークエンスがあれば文句は無いのだが、唯一の立ち回りのシーンである劇場内での決闘は、殺陣が決まらず低調に推移する。これでは説得力に欠ける。

 そしてシラノの盟友である新兵クリスチャン・デ・ヌヴィレットに扮するケルヴィン・ハリソン・Jrは黒人だ。もちろんアフリカ系俳優であること自体がイケナイということではないが、彼は線が細くて軍人らしくない。そもそも、この時代のフランスで黒人兵が前線に立つというのは、どうにも違和感は拭えない。

 さらに最大の難点は、シラノが恋心を抱くロクサーヌを演じるヘイリー・ベネットだ。どう見ても歴史劇のヒロインに相応しいルックスではない。誰もが見惚れるような正統派美人女優を起用すべきだった。しかしながら、彼女は演出を務めたジョー・ライトの嫁であり、この監督に仕事をオファーすることは彼女がバーターで付いてくることは十分考えられたはず。これはプロデューサーの責任かもしれない(笑)。

 ライトの演出は今回は特筆すべきものはなく、起伏に欠け平板だ。ラストの愁嘆場も盛り上がらない。アカデミー賞から袖にされたのも当然か(ノミネートは衣装デザイン賞のみ)。

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