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堤未果「デジタル・ファシズム」

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 サブタイトルに「日本の資産と主権が消える」とあるように、本来は生活や仕事の質的向上に貢献するはずの各種デジタルデバイスが、個人情報の不当な集約と悪用に繋がり、最終的には一種のファシズムを喚起することを説く一冊。著者の堤はリベラル系ジャーナリストのばばこういちの娘であり、国際情勢等に関する書物で実績をあげた気鋭のライター。なお、彼女の夫は参議院議員の川田龍平である。

 通常、新書判のノンフィクションは読みやすいが、中身が薄いものが多い。本書も、それほど深い考察が成されているわけではない。しかし、ここで紹介されている事実は十分に衝撃的だし、何より作者の危機感がひしひしと伝わってきて、読みごたえがある。

 昨今、日本におけるデジタル施策の遅れが指摘され、2021年のデジタル庁の発足をはじめ、国を挙げてこの方面のイノベーションが図られている。もちろん、IT技術の導入による業務効率化は望ましいことだ。しかし問題は、その施策にGAFAやBATHをはじめとする大手グローバル企業がしっかりと食い込んでいることである。

 本来は公的機関で扱われる情報や、個人の消費行動などが大手キャリアに筒抜けになり、結果としてデータが営利目的に転用される。さらに、これらの情報を市場ニーズの誘導にまで使うという意図まで透けて見える。また、多額の公的予算が公正な市場原理を経ずに特定企業に流れていくのは言うまでもない。

 当然のことながら、これは大手キャリアだけが悪いのではない。民間の活力とやらを注入すれば効率化が達成されるだろうという、当局側の安易な構造改革志向の表れである。特に作者は教育分野の不用意なデジタル化についてページを割いて批判している。本来、教育は国の公的セクションにおける重要課題であるはずだが、これがデジタル施策推進の名のもとに民間キャリアに対して切り売りされている。そしてコロナ禍によりその傾向は一層顕著になっている。

 これは作者の出身校が自由な校風を持っていたことも関係していると思われるが、その畳みかけるような筆致は読む者を引き付ける。もっとも、本書の内容は問題提起の次元に留まっており、具体的な対策を提示するまでには至っていないが、読む価値がある書物であるのは間違いない。すでに15万部を超える売れ行きを示しているのも頷ける。

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