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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「風立ちぬ」

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 宮崎駿はすでに“終わった”作家であり本作も期待出来なかったが、興行上は夏番組の本命で、また何かとニュースにも取り上げられている映画なので一応はチェックしておこうと思った次第。結果、やっぱりツマラナイ作品であることが分かったが、最初から覚悟していたのであまり腹は立たない(笑)。

 本作の一番の敗因は、キャラクター設定が物凄くいい加減であることだ。主人公の堀越二郎は、零戦の設計者である堀越二郎と小説家の堀辰雄とを勝手に“合体ロボ”させた人物。最初から頭の中だけで考え出したような造形なので、まるで地に足がついていない。

 主人公が無類の飛行機マニアであることは分かる。そして世界一の飛行機を作りたいと熱望していることも分かる。だが、彼が作ろうとしているのは戦争の道具なのだ。しかも、零戦は“防弾装備が必要とされるのは搭乗員のスキルが低いからだ。我が海軍のパイロットには練度の低い者はいない”という人命軽視も甚だしいコンセプトにより、ディフェンス面を疎かにして作られたモデルだった。

 これではベテランの飛行機乗りが数少なくなり、なおかつ敵戦闘機の性能が上がってしまえばたちまち不利になることを意味しており、事実戦争末期にはそれが現実化したのであるが、それに対する言及は全くない。映画では単に“堀越二郎は純粋無垢な飛行機好きだった”という御題目が漫然と垂れ流されるのみ。

 もちろん、一つのことにしか興味を持たず、自分の作る物によって世の中がどうなろうと知ったことではないという、筋金入りのオタク野郎を主人公にするという方法論は十分あり得る。それを突き詰めれば、面白い映画になったかもしれない。ところがこの堀越二郎という奴は、オタクのくせに中途半端に色恋沙汰にうつつを抜かし、中途半端にヒューマニスティックな振る舞いをし、中途半端に職場の和を大切にする、何とも煮え切らない存在なのだ。

 そして、彼から中途半端に“非・オタク的”な対応をされる周囲の連中も、同じように中身のないキャラクターばかりである。つまりはこの映画、中身がカラッポの登場人物達が要領を得ない行動を延々と繰り返すだけの、内容空疎の極みのようなシロモノなのだ。

 加えて二郎の声を担当しているのが庵野秀明というド素人。ヘタウマの線を狙ったのかもしれないが、ちょっと酷すぎる。ヒロイン役をアテる瀧本美織にしても映画のキャラクターになりきっておらず、何をやっても瀧本自身にしか見えないのは辛い。映像面では関東大震災の場面こそ見応えがあるが、あとは凡庸な展開に終始。宮崎得意の飛行シーンにしても、過去の諸作と比べようもないほど低レベルだ。

 そもそも名うての反戦主義者である宮崎にとって、零戦が戦場で活躍する場面を描けないのは自明の理であり、どうしてこのようなネタにしがみついたのか、理解に苦しむ。

 さて、先日宮崎駿は“引退宣言”をしたが、何を今さらという感じだ。製作から完全に手を引くのならば、20年前にやって欲しかった。まあ、あと数年経てば今回の引退を忘れたかのように、いけしゃあしゃあと映画作りに復帰してくるのかもしれないけどね(-_-;)。

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