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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ハウス・オブ・グッチ」

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 (原題:HOUSE OF GUCCI)正直言って、この映画を観るよりも98年に放映されたNHKスペシャル「家族の肖像 激動を生きぬく(第9回) グッチ家・失われたブランド」をチェックした方が数段面白いし、タメになる。実際の出来事がドラマティックであるならば、それを題材に劇映画に仕上げる際には、事実を凌駕するようなヴォルテージの高さが必要であるはずだが、本作にはそれが無い。ドキュメンタリー作品に後れを取るのは当然のことだ。

 95年3月、イタリアの代表的ブランド“GUCCI(グッチ)”の3代目社長マウリツィオ・グッチがミラノの街角で暗殺される。その事件の裏で暗躍していたのが、マウリツィオの妻パトリツィアだった。映画は2人の出会いの時期に遡り、グッチ家の複雑な事情と揺れ動くファッション業界を描く。



 マウリッツォの父親ロドルフォは昔気質の経営者だが、その兄アルドは積極路線で海外にも事業を広げていた。しかしアルドの息子パオロは出来損ないで、家業を傾ける可能性があった。そこに付け込んだのがパトリツィアで、彼女はアルド親子を追い落として夫を社長に据えると共に、グッチ内の実権を握ろうとする。サラ・ゲイ・フォーデンのノンフィクション小説の映像化だ。

 映画はパトリツィアを強欲な悪女として描こうとしているようで、実際に彼女はロクなものではなかったのだが、困ったことに確固とした行動規範が見られない。演じるレディー・ガガが俳優としてはキャリアが浅いことも関係していると思うが、とにかく“根っからの悪女”には見えず、単に行き当たりばったりに振る舞っているだけだ。これは脚本の不備だろう。

 そして致命的なことは、映画が事実をトレースしていないことだ。パオロは決して無能ではなく、60年代末にはデザイナーとして実績を残している。ただ、暴走してグッチを傾けたことは事実だが、無能ぶりといえばマウリツィオの方が甚だしい。手を出した事業が次々と失敗するのだが、映画ではセリフでサッと語られるだけで実相には迫っていかない。これでは、パトリツィアにおだてられたという筋書きが功を奏しない。

 また、パトリツィア自身がデザインした製品が売り出されたがほとんど評価されなかったことや、パオロの次男が別ブランドを立ち上げていることにも触れられていない。そもそも、グッチは創業者が皮革製品を手掛けたことから始まっているのだが、そのあたりの言及も希薄だ。

 リドリー・スコットの演出はピリッとせず、無駄に2時間40分にまで尺を伸ばしている。最も違和感を覚えたのは、全員がイタリアなまりの英語を話していることだ。これが実にワザとらしい。ハリウッド作品であるから“普通の英語”でも構わないし、R・スコットは製作総指揮に回ってイタリア人のキャストで映画化した方が遥かに良かった。

 ガガ以外にはアダム・ドライバーにジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエック、アル・パチーノ、カミーユ・コッタンなどが顔をそろえ、随分と豪華。しかし、それぞれの良さが出ていない。映像や音楽も特筆すべきものは無い。せっかくガガが出ているのだから、主題歌ぐらい担当させても良かったのではないか。

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