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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「カンパニー・マン」

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 (原題:CYPHER)2001年作品。デビュー作の「CUBE」(97年)が評価されたヴィンチェンゾ・ナタリ監督は、この映画でも“密室劇”を大々的に展開している。その仕掛けは賑々しくて結構なのだが、題材自体に新奇さが足りず、筋書きもそれに沿ったものてになっているため、インパクトはそれほどでもない。だが、最後まで退屈しないだけのヴォルテージは保持している。

 近未来のアメリカ。刺激が少なく張り合いのない生活を送っていたモーガン・サリバンは、やり甲斐を求めてハイテク企業として名高いデジコープ社の入社試験を受ける。採用されたモーガンを待っていたものは、デジコープ社のスパイとなってライバル企業であるサンウェイズ社の機密を入手するという、ヤバそうな仕事だった。



 それでも好奇心に駆られて引き受けた彼は、ジャック・サースビーという名と偽のIDカードを与えられ、早速業界のコンベンションに潜入して情報盗聴を開始する。ところが、仕事を進めるうちに彼は激しい頭痛と奇妙な映像のフラッシュバックに悩まされるようになる。そんな中、謎めいた若い女リタが現われてモーガンに意外な事実を告げるのだった。

 世界有数の産業スパイ派遣会社に入社した主人公は全米各地を飛び回るが、映し出されるのは飛行機の中だったり会議室だったり、およそ空間的な広がりが見られない“密室”ばかりだ。唯一“野外”を想起させる場面は彼が自宅に戻るために住宅地を車で走るくだりだが、ここでもカメラが俯瞰になると街全体が「CUBE」のような閉鎖的空間に早変わりする。

 このように映像面では(フラッシュバックの多用が気になるものの)個性を十分発揮しているが、内容はというと“ちょっと変わったスパイ・スリラー”の域を出ない。伏線を散りばめてドンデン返しを狙うプロットの積み上げは一応評価はできるものの、設定自体が“産業スパイ”という幾分古風なものであるためか、全体が小ぶりになってしまった。ここは何でもない市井の人間を主人公にして、日常が非日常に転化する際の落差を強調するようなシチュエーションにするべきだったろう。

 主役のジェレミー・ノーザムは悪くないが、ヒロインに扮するルーシー・リューはどうもルックスが好みではないので盛り下がってしまった(笑)。なお、シナリオ担当のブライアン・キングはヒッチコックのファンらしく、「北北西に進路を取れ」と酷似したシーンがあるのは御愛嬌だ。

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