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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「クーリエ:最高機密の運び屋」

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 (原題:THE COURIER )映画を無駄に長年観続けていると、それまで知らなかった事実を思い掛けず提示されることが少なくない。特に歴史を扱ったものに関してそれは顕著で、こちらとしても調べてみる契機になる。本作も同様で、ここで描かれた史実については全く知識が無かった。その意味で興味深いが、反面、事実の範囲内でしか物語が展開しないため。そこをどう面白く見せるかが送り手の手腕が問われるところである。

 1962年、冷戦真っ直中の米ソ間に新たな問題が持ち上がった。ソ連がキューバに核兵器を搬入したという疑惑が生じたのだ。詳細なソ連側のデータを得るため、CIAとMI6はスパイ経験の無い英国人ビジネスマンのグレヴィル・ウィンを情報伝達係としてモスクワに送り込む。彼が接触する相手は、国の姿勢に疑問を抱いているGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の高官オレグ・ペンコフスキーだ。クレヴィルはロンドンとモスクワの間を何度も行き来して情報を西側に流すが、やがてオレグの挙動に不信感を抱いていたKGBが調査を始める。



 いわゆるキューバ危機の裏側で、このような情報戦が展開されていたとは、映画を観るまでは関知していなかった。しかも、スパイに仕立て上げられたのがグレヴィルのような一般人であったことは、衝撃が大きい。主人公が諜報活動に荷担し、次第に神経をすり減らしてゆく様子は上手く描かれている。また、家族との仲がギクシャクしていくプロセスも容赦無しだ。

 対して、グレヴィルとオレグとの国境を超えた友情はしみじみと見せる。2人でボリショイ・バレエを観劇して感動を共有するシーンは、特に印象的だ。ただし、後半の筋書きは暗くて付いて行いけないところがある。もちろんこれは史実なのでストーリーの変更は出来ないのだが、やっぱりインテリジェントに関わる者にとっては情けは禁物であるという“真実”を突きつけられて、沈痛な気分になる。

 ドミニク・クックの演出は正攻法で、弛緩することなく映画を引っ張ってゆく。主演のベネディクト・カンバーバッチは大熱演で、肉体改造までやってのける役柄に対する熱意には、観ていて襟を正さずにはいられない。オレグ役のメラーブ・ニニッゼや、レイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリーといった他の面子も万全。ショーン・ボビットのカメラによる寒色系の映像も申し分ない。

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