(原題:DRUK)人を食ったような題材だが、観終わってみれば人生の機微を余すことなく伝える良作であったことが分かる。特に、中年以降の“アイデンティティの危機”に見舞われて道に迷っているような層に対しては、かなりアピール度が高い。第93回米アカデミー賞において、デンマーク代表として国際長編映画賞を受賞した注目作だ。
コペンハーゲンのウォーターフロントエリアに住む高校の歴史教師のマーティンは、妻とはすれ違いの生活を送り、子供たちとも上手くコミュニケーションを取れない。そのため授業にも身が入らず、鬱屈した日々を送っていた。ある時、彼は友人の誕生パーティーの席で“血中アルコール濃度を0.05%程度に保つと、仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる”というノルウェー人の哲学者が提唱した説を聞き、同じく冴えない教師仲間の3人とその理論を“実証”することを決める。
次の日から彼らは朝から酒を飲み続け、酔っぱらった状態で授業に出ると、なぜか生徒のウケが良くなり、楽しく仕事をすることが出来た。気を良くした彼らはさらに飲酒に勤しむが、やがてブレーキが利かなくなり、取り返しのつかないトラブルに見舞われる。
しょせん酒なんてものは、ただの嗜好品で気分転換やリラックス効果をもたらすものでしかない。しかも、飲み過ぎると確実に良くないことが起きる。ならば主人公たちの行動はただの現実逃避かというと、そうでもないところが悩ましい(苦笑)。彼らは飲酒によって、何かを会得したのだ。
それは時に自身を滅ぼす一歩手前まで直面させられたり、実際に破滅していくケースもあったのだが、酒の力を借りて本音をさらけ出し、周囲との関係性が新たなフェーズに移行していったのは確かだ。もちろん、酒を飲まないと言いたいことも言えないのは褒められたことではない。だが、ギリギリまで追い込まれないと自己主張もできないのは、つまり年齢を重ねて社会のしがらみに絡め取られた結果であり、一概に否定されるようなことではない。主人公たちにとってその“ギリギリに追い込まれた状態”というのが、たまたま過度の飲酒であっただけの話だ。
このホロ苦い人生模様をシビアに描くトマス・ヴィンターベア監督の手腕は、評価されて良い。主演のマッツ・ミケルセンは相変わらずの芸達者で、ショボくれた中年男ながらどこか色気のある主人公像を上手く表現している。また、得意のダンスまで披露してくれたのは嬉しい。トマス・ボー・ラーセンにマグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネビーといった脇の面子も万全。それにしても、デンマークでは16歳から飲酒が許されるとかで、高校生が飲んだくれている様子も映し出されるのは驚いた(笑)。