(原題:FREE GUY)映画自体は面白かったが、それ以外にも興味を惹かれるモチーフがあり、楽しんで約2時間を過ごすことが出来た。また、お手軽作品のようでいてけっこう社会風刺も利いており、ドラマが薄っぺらくならないのも良い。キャラクター設定およびキャストの頑張りは印象的で、工夫次第ではシリーズ化も可能になると思われる。
架空の町“フリー・シティ”に住むガイは平凡な銀行員。窓口業務を担当しているが、毎日のように強盗に襲われる。実はこの町はゲームの電脳空間であり、大半の住民はそのキャラクターに過ぎないが、皆何の問題意識も持たず同じ一日を繰り返している。ガイもゲームのモブキャラ(その他大勢)の一人なのだが、随分前から“理想の女性にめぐり会いたい”という欲求を持つようになっていた。
そんな時、ゲーマーのアバターであるモロトフ・ガールと出会ったことを切っ掛けに、退屈な日常から抜け出すことを決心する。一方、現実世界ではこのゲームの作成者でありながら悪徳企業に版権を奪われてしまったミリーとキーズが、くだんの会社社長であるアントワンを相手に訴訟を起こしていた。
ルーティンワークに忙殺されるガイの造型は、まさしく多くのビジネスパーソンの暗喩で、無個性な服装がそれを強調する。ガイはゲーム参加者の分身ではなく、AIがゲームの中に作り出した“人工生命体”で、意志と感情を持つに至っている。彼は他のモブキャラたちを鼓舞し、このヴァーチャルな町の“民主化”を訴える。自らの悪事の証拠がゲーム内に隠されていることを察知したアントワンはサーバーの破壊を企むが、それをゲームの内と外から時間内に解決しようとする主人公たちの活躍は、けっこうスリリングで盛り上がる。
そして何より、冒頭おなじみのファンファーレとともに20世紀スタジオのロゴが出てくるのだが、そこに“FOX”という文字は無いことに驚く。そう、この伝統ある映画会社もディズニーに買収されたのだ。しかし、そんな手練れの映画ファンの思いをよそに、本作は他のシリーズからのキャラクターとネタを遠慮会釈無く放り込んでくる。これが意外に効果的で、終盤の大立ち回りの場面は爆笑と喝采の連続だ。
ショーン・レヴィの演出は賑々しくもソツが無く、最後までテンションが落ちない。主演のライアン・レイノルズは絶好調で、一本気で憎めないキャラクターを楽しそうに演じる。ジョディ・カマーやリル・レル・ハウリー、タイカ・ワイティティ、ジョー・キーリーといった他の面子も良い仕事をしている。なお、映画会社の再編により、この映画の主人公もMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に参画出来るかもしれない。次回はデッドプールの“分身”として活躍してもらいたい(笑)。