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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「いとみち」

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 大して面白くもない。ポスターとキャッチフレーズから、私は観る前はヒロインが三味線を弾きまくる映画だと思っていた。一種のスポ根ものかと予想していたのだ。ところが実際接してみると、何とも形容のしようがないモヤモヤとした作りになっている。これでは評価出来ない。

 弘前市の高校に通う相馬いとは、幼い頃から祖母と亡き母に津軽三味線を習い、中学校卒業までにかなりの実績をあげていた。ところが進学後に今の自分の姿に疑問を感じ、思い切ってメイド喫茶でアルバイトを始める。一方、大学教員である父親の耕一は東京出身だが、亡き妻の実家である青森に移住している。ただ、年頃の娘とのコミュニケーションが上手くいかず悩む日々だ。越谷オサムによる同名小説の映画化である。



 序盤に、いとが訛りの強い津軽弁を話すため何となくクラスで浮いている場面が映されるが、これはとても不自然だ。仲間内ならばともかく、授業中の受け答えも彼女一人だけコテコテの方言であるというのは、合理的な説明を抜きにしては納得出来るものではない。どうしていとがメイド喫茶でバイトしようと思ったのか、それも不明だ。単に時給が高いというのが理由ならば、その動機の背景を描くべきだ。

 バイト先の人間模様や、店の経営がどうだというのも、あまり興味を惹かれるネタではない。常連客の様子も凡庸な展開に終始。もっと濃いキャラクターを配しても良かったと思う。父や祖母、亡き母との関係性は思い入れたっぷりのようで、実は何も描けていない。いとが再び三味線を手に取るプロセスにしても、御都合主義的なシチュエーションが鼻に付く。

 そもそも、ヒロインが三味線を弾くのは終盤だけである。それも、劇中で熱心に練習を重ねて上手くなったというくだりは無く、いとは最初から熟達者なのだからドラマとしては盛り上がらない。あとは中盤の三味線が破損してどうのこうのというパートが流れるだけで、いったい何のために津軽三味線を題材にしたのか理解困難である。

 横浜聡子の演出は平板でキレもコクも無く、漫然と話が進むのみ。主演の駒井蓮は表情に乏しく魅力が感じられない。もっともそれは、本人の実力というよりも監督の演技指導が不十分だからだろう。あとのキャストでまあまあ良かったのは豊川悦司と黒川芽以ぐらい。祖母役の西川洋子は高橋竹山の弟子らしいが、それらしいカリスマ性は希薄。別に観なくてもいい映画だ。

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