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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」

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 (原題:AMAZING GRACE )資料的な価値は大いにあり、不完全な形であった元のフィルムを何とか修復したスタッフの努力には感服するが、映画として面白いかどうかは別問題だ。コンサートの様子を描いたドキュメンタリー映画は少なくないが、正直な話、本作が過去の数々のウェルメイドなコンサート・フィルムに比べて殊更優れているとは思えなかった。

 1972年1月13、14日の2日間、ロスアンジェルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でおこなわれたアレサ・フランクリンのライブを、シドニー・ポラックが撮影したものだ。その音源はアルバム「至上の愛 チャーチ・コンサート」としてリリースされ、ヒットを記録した。しかし、肝心のフィルムの方は撮影時の不手際により音と映像がまったく合っておらず、とても一般に見せられるものではなかったらしい。その後、長い時間をかけて再編集され、ようやく公開にこぎつけたものだ。



 “クイーン・オブ・ソウル”との異名を持つフランクリンのパフォーマンスは、やっぱり凄い。圧倒的な歌唱力と表現力で、観る者をねじ伏せる。司会を務めるジェームズ・クリーブランド師や、コーネル・デュプリーにケニー・ルーパーなどの手練れを揃えたバックバンドの存在感にも目を見張る。

 しかしながら、いくら修復を重ねたにせよ、元の素材は不完全なものでしかない。全体的に映像は粗く、ボケている箇所が多数ある。どこでカメラを回しているのだと突っ込みたいほど、画面の構図に難がある。また平気でスタッフが何度もカメラの前を横切っているのは、いくら何でもプロ意識に欠けるだろう。

 そして何より、教会音楽で育ったフランクリンの“原点”に戻るという企画で、教会という会場にも合わせたように、大半のナンバーがゴスペルソングだったのには、イマイチのめり込めなかった(もちろん、お馴染みのヒット曲は披露されない)。個人的にはソウル・ミュージックは好きだが、劇中で歌われるディープなゴスペルは守備範囲外だ。

 表題曲の「アメイジング・グレイス」も、かなりアレンジ強めのゴスペル寄りの歌唱で、あまり良いとは思えなかった。そして、司会者の煽りでトランス状態になって踊りだす観客がいるのも、何やら宗教的な陶酔感が前面に出ていて好きになれない(こちらがキリスト教にさほど思い入れが無いこともあるが)。

 なお、ウケたのは客席にローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツがいたこと。思わず“ステージに出て何か歌え!”と言いたくなったが(笑)、このコンサートの趣旨に鑑みれば無理な話だったのは惜しまれる。

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