(原題:THE PROM)2020年12月よりNetflixにて配信。人気テレビシリーズ「glee グリー」のディレクターを務めたライアン・マーフィーが演出を担当したミュージカル映画ということで、雰囲気は実にあの番組に似ている。ただ違うのは、有名スターを主役級に据えたこと、そして使用ナンバーがオリジナル曲ばかりだということだ。そのあたりを大きく評価するかしないかで、本作の印象は変わってくると思う。
かつてトニー賞を獲得したこともあるブロードウェイの元人気舞台俳優ディーディーとバリーは、満を持して送り出した新作ミュージカルが大失敗し、役者生命が崖っぷちに立たされる。何とか挽回策を考えていた折、SNSでインディアナ州の田舎町で同性愛の恋人同士の女子高生エマとアリッサが、カップルでプロム・パーティーに参加することをPTAに止められて悩んでいることを知る。
ディーディーとバリーは、この問題に賑々しくコミットすることによって自分たちのリベラルなイメージを印象付け、ショウビズ界にアピールすることを考える。2人は同じく役柄に恵まれない友人のアンジーたちと共に、インディアナ州に乗り込むのであった。
最近のトレンドであるLGBTQを題材にしたシャシンで、多分に作りは優等生的だ。断っておくが、別にそれが悪いということではない。捻った筋書きや深刻な展開といった、たいていのミュージカル映画には不向きなネタが採用されていなければ、それでヨシとしよう。ただやっぱり気になるのが、冒頭に述べた著名キャストの起用と、オリジナル楽曲の使い方である。
何しろディーディーに扮しているのがメリル・ストリープで、アンジー役がニコール・キッドマンなのだ。無論、この2人が歌って踊れることは誰でも知っている。だが、彼女たちはミュージカル・スターではない。しかも、俳優としての存在感が先行して、他のキャストとの“差異”が目立っている。もっと本職の、手練れの舞台役者を連れてきた方が自然なタッチを醸し出せたはずだ。
そしてオリジナルのナンバーの数々は決して悪くはないが、「glee グリー」における既成曲の思い切った起用とアレンジで観る者の意表を突くという面白さは実現出来ない。個人的には、そのあたりが物足りないのだ。
マーフィー監督の仕事ぶりはドラマの明るい雰囲気を前面に出して好印象ではあるが、やっぱり「glee グリー」には及ばない。ただ、ジェームズ・コーデンにキーガン=マイケル・キー、ジョー・エレン・ペルマン、アリアナ・デボース、ケリー・ワシントン、そしてトレイシー・ウルマン(!)といった他の顔ぶれは悪くない。そして“(「glee」の舞台になった)オハイオ州はすぐ隣だよ”といったセリフが出てきたのには笑った。