(英題:Bad Genius)2017年タイ作品。とても面白い。ユニークなドラマ設定から絶妙のキャラクター配置、巧みな筋書きと気持ちの良い結末と、娯楽映画に必要な要素はすべて揃っている。加えて、畳み掛けるような展開とキャストの熱演もある。本国で大ヒットを記録したのも当然だろう。
中学校時代は優秀な成績をおさめ、特待生として名門私立高校に入学したリン。定期テストの際に友人のグレースを回答を“共有”することで手助けしたのだが、そんな彼女の行為が思わぬ“評判”を呼び、グレースの彼氏で金持ちの息子のパットは、リンの回答を皆に教えることで金を儲けるというビジネスを立ち上げる。その試みは学校側にバレて一度は謹慎処分を食らうのだが、彼らは今度は定期試験のカンニングよりも数段実入りの良い、アメリカの大学に留学するため世界各国で行われる大学統一入試(STIC)の攻略に乗り出す。
勉強は出来るが父子家庭でコンプレックスを持っているリンが、不適切な行為に手を染めるプロセスは分かりやすい。また、マジメだが家が貧しく進学が難しい優等生のバンクがこの企みに荷担する事情も納得出来る。つまりは、個人の力ではどうしようもない社会的ヒエラルキーを前にして、向上心のある者が取らざるを得ない手段の存在について、平易に描出しているわけだ。
こうして主要キャラクターの造型に成功すれば、あとはストーリーを力業で押し進めれば良い。ナタウット・プーンピリヤの演出はパワフルで、前半からカンニングのテクニックを小出しにして観客を惹き付け、ドラマが進むほど思い切ったオペレーションをどんどん仕掛けてくる。
リンたちはSTICが世界中同じ問題内容であることに目を付け、当日最も試験開始時刻が早いオーストラリアに飛び、回答をいち早く本国に通知するという作戦を立てる。しかし、当然ながら試験官も対策を講じていて、両者の駆け引きがジェットコースター的に展開する終盤は手に汗を握るサスペンスだ。
主演のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンをはじめ、チャーノン・サンティナトーンクン、ティーラドン・スパパンピンヨー、イッサヤー・ホースワンといった生徒を演じる若手はそれほど演技経験は無いというが、皆良くやっている。幕切れの処理も後味が良く、これはハリウッドでリメイクされてもおかしくない快作だ。