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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「十階のモスキート」

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 83年作品。日本映画監督協会理事長をつとめる崔洋一の劇場用長編デビュー作で、ヴェネツィア国際映画祭に出品されると共に、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞などを受賞。当時は高く評価されたが、実際に本作の質は高い。ちょうどこの頃に邦画界には有望な若手監督が次々と現れて活況を呈し、崔監督もそのムーブメントの一翼を担うと認識されていた。

 主人公は団地の十階に住む、万年平巡査の冴えない中年警察官(役名は無い)。とうの昔に妻は離婚して娘を伴って家を出ているが、男は競艇場通いに明け暮れて毎月の慰謝料や養育費の支払いにも困る有様だ。そのため彼はサラ金に手を出すが、返済出来る見通しは全然つかない。彼は行きつけのスナックに勤める若い女と懇ろな仲なのだが、もちろん彼女が金銭問題に関して手助けしてくれるわけでもない。いよいよ切羽詰まった男は、捨て鉢な行動に出る。



 ロクでもない男が堕落していくというハナシで、それ自体は救いは無いのだが、観ているとけっこう面白いのだ。とにかく、この主人公の佇まいから滲み出る、世の中を投げ捨てたような潔さとハードボイルドっぽさに見入ってしまうのだ。何の言い訳もせず、ただただ逆境を一人で引き受けていくそのストイックさ。それはまた、他者とのコミュニケーションすら蹴飛ばしてしまう孤高の美学をも演出している。

 そのことを効果的に引き立たせる小道具が、彼が昇進試験受験のために買い入れるパソコンだ。当時はパソコンは高額で誰でも手に出来るものではなかったのだが、このマシンを手に入れてその操作にのめり込むことにより、彼の心理的ベクトルが一層デジタルでささくれ立った境地に向いていく様子がよく分かるのだ。そして終盤の彼の暴走を見物する多数の野次馬を見た時、男は我に返るという筋書きは何とも皮肉で興趣に富んでいる。

 崔洋一の演出は力強く、一点の緩みも無い。主人公の転落ぶりをスペクタクル的にスクリーンに叩き付ける気合いは大したものだ。そして主演の内田裕也のバイオレントな存在感は凄い。80年代の彼は映画俳優として最高の仕事ぶりを見せていた。

 中村れい子に宮下順子、アン・ルイス、吉行和子、佐藤慶、風祭ゆき、ビートたけし、横山やすしなど、脇の面子も非常に濃い顔ぶれを揃えている。また主人公の娘に扮していたのが小泉今日子で、当時は売り出し中のアイドルがこういうヤバめの作品で映画デビューしたというのも驚きだ。大野克夫の音楽と白竜による挿入歌も申し分ない。

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