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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「彼女は夢で踊る」

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 観ていて年甲斐も無く、胸が“キュン!”となってしまった(大笑)。我々オッサン層にとっての“胸キュン映画”とは、巷に溢れる壁ドン映画などでは断じてなく、こういうレトロ風味の美学に裏打ちされた、哀愁に満ちたシャシンなのだ。過ぎ去ってしまったもの、そしてこれから消えゆくもの、それらに対する哀切が溢れ、しみじみと感傷に浸れる。こういう映画は好きである。

 広島の歓楽街にあるストリップ小屋“広島第一劇場”は、社長の木下の奮闘もむなしく閉館が決定する。最後の記念公演として、名の知れたストリッパーが集結。その中に、木下が若い頃にこの職に就く切っ掛けになった踊り子にそっくりなダンサーを見かける。木下は昔を振り返り、彼女との出会いと別れを回想するのだった。広島市に実在するストリップ劇場を舞台にしたラブストーリーだ。



 映画は、現在と過去を平行して描く。昔、張り合いの無い毎日を送っていた若手サラリーマンの木下は、ひょんなことから“広島第一劇場”に出演中のストリッパーと知り合う。彼女のステージを観てその素晴らしさに打ちのめされた彼は、劇場で働くことになる。やがて支配人から小屋の運営を任された彼は、この劇場を維持するために奔走する。

 いまやパソコンやスマホで簡単にアダルト画像が無料で閲覧出来る時代にあって、ストリップはオールドスタイルな興行様式でしかない。だが、ストリップ小屋には他のメディアでは得がたい臨場感がある。ここに入れば、辛い浮き世を忘れられる。つまりは立派なエンタテインメントでもあるのだ。

 その、現実と遊離した“別世界”に魅せられた木下は、人生をそこに全て捧げてしまう。端から見れば愚かな行為かもしれないが、実は誰だってこの主人公のように“夢で踊る”ような生き方をしてみたいのだ。木下の清々しいまでの生き様は、しがらみに囚われて思うように振る舞えない者からすれば、何とも眩しくて羨ましい。それはストリッパーたちにも言えることで、この斜陽化した興行形態に敢えて身を投じ、文字通り飾らない姿を何の衒いも無く見せつける生き方には、感動するしかない。



 時川英之の演出はモノローグの多用など多分に気取ったテイストが感じられるが、それがこの作品ではプラスに作用している。主演の加藤雅也は今回珍しく“老け役”に挑戦し、実にイイ味を出している。青年時代の木下に扮した犬飼貴丈も、繊細なパフォーマンスで好印象。

 ベテランの踊り子に扮する矢沢ようこは、さすが“本職”だけあってステージ場面は盛り上がる。そしてヒロイン役の岡村いずみは行定勲監督の「ジムノペディに乱れる」(2016年)の時よりも数段魅力的に撮られており、今後の活躍を期待させるものがある。また、バックに流れるレディオヘッドの“クリープ”が素晴らしい効果を上げていた。

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