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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「コルチャック先生」

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 (原題:KORCZAK )90年作品。この頃のアンジェイ・ワイダ監督作品としては、出来が良い方だと思う。やはり第二次大戦下のポーランドを舞台にした実録ものを撮らせると、同監督は無類の強さを発揮する。また、脚本担当として(後に映画監督としても地位を確立する)アニエシュカ・ホランドを起用したのも大きい。

 ユダヤ人の小児科医であるヤヌーシュ・コルチャックは、子供たちの健康を守るかたわら、孤児院の責任者として地域に貢献していた。しかし1940年になると、ナチス・ドイツのポーランド侵攻が始まる。ナチスはユダヤ人をポーランド社会から切り離すためゲットーに送り込もうとする。コルチャックは徹底してナチスに反抗し、投獄されるなど辛い目に遭う。



 それでも彼は子供たちを守るため、密輸業者からの闇献金をも受け入れて持ち堪える。だが、やがてユダヤ人の収容所への強制移送が始まる。コルチャックは友人の手助けで国外亡命することもできたが、彼は自分だけ逃げることを潔しとしなかった。ホロコーストの犠牲となった実在のユダヤ人医師の生涯を描く。

 時代背景と主人公の造型を勘案すれば、筋書きは予想が付く。だからどのような“語り口”で映画が進められているのかが焦点になるのだが、それは十分及第点に達している。結局、コルチャックは“子供のための美しい国”に生きたのだ。そこは子供がいるからこその存在価値があり、自分一人が助かっても、それは“生きた”ということにならない。子供たちがいない人生など、死んだも同じなのだ。

 彼にとって“アーリア人に似た子をゲットーから出せばかくまえる”とかいった周囲の助言も、ただの“雑音”にしか感じない。子供の扱い方が上手いホランドの脚本は、このハードな境遇をまるでファンタジーのように演出させる。だからこそ、幻想的とも言えるラストの処理も、まるで違和感が無い。それが却って、時代の残酷さを強調させるのだ。

 ワイダの仕事ぶりは重厚で、スキが見当たらない。一時たりとも目を離せない密度を醸し出しながら、押しつけがましさが無い。主演のヴォイツェフ・プショニャックをはじめ、キャストは皆好演。ロビー・ミュラーのカメラによるモノクロ映像が美しさの限りだ。第43回カンヌ国際映画祭特別表彰受賞。

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