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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「青春デンデケデケデケ」

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 92年作品。いかにも大林宣彦監督らしい映像ギミックが満載だが、本作ではそれが鼻に付くということはなく、全編に渡ってビシッと決まっている。音楽を題材としているためか画面展開のノリが良く、特に粒子の粗い映像からクライマックスのコンサート場面での5ミリ撮影に移行する際の開放感は素晴らしい。インサートカットやモノローグの多用も、独特の躍動感を伴っているために、あまり気にならない。

 1965年の春休み、香川県の観音寺市に住む高校入学を目前に控えた僕、ちっくんこと藤原竹良は、ラジオから流れてきたベンチャーズの曲「パイプライン」のギターリフに心を奪われてしまい、高校に入ったらバンドを結成することを決意する。



 集まったのは住職の息子の富士男とギターの得意な清一、ブラスバンド部から強引に引き抜いた巧、そして僕はサイドギターとヴォーカルを担当し、グループ名を“ロッキング・ホースメン”に決めて練習を開始する。彼らはスナックの開店記念パーティで念願のデビューを果たす等、一応の成功を収め、やがてバンド活動も3年生の文化祭の演奏会を最後に終わりを告げる。第105回直木賞を受賞した、芦原すなおの同名小説の映画化だ。

 60年代のエレキブームを題材にはしているが、ノスタルジアは希薄だ。しかも、主人公たちは最初はズブの素人のはずだが、なぜか皆バンド結成当初から上手かったりする。つまりはリアリティは捨象されているのだ。ならばこれは何かといえば、ファンタジーに他ならないだろう。もちろん、凡百のファンタジー映画のようなドラマツルギー無視の御都合主義が目立つわけでは無く、あくまでも“大林印のファンタジー”に音楽ネタを入れ込んだという案配だ。

 バンドの4人組の学生生活には、生々しい思春期の葛藤や苦悩は見られない。ドラマティックな出来事も起こらない。ただフワフワと、夢心地で時が流れてゆくだけだ。しかし、それが面白くないのではない。若い頃はこうであって欲しかったという、年長者の願望があらわれている。それを懐古趣味に走らずにファンタスティックに仕上げられるのは、この監督の特筆だろう。

 林泰文に大森嘉之、浅野忠信、永掘剛敏ら“ロッキング・ホースメン”の面々頑張りに加え、柴山智加、滝沢涼子、岸部一徳、尾美としのり等の脇の面子も的確な仕事を見せる。いつもの“尾道シリーズ”とはまた違う、瀬戸内の風情が映画に花を添える。

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