(原題:Stardust Memories )80年作品。明らかにフェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2」(1963年)を意識した作品ながら、製作当時は先鋭的だったかもしれないが今観ると鼻白むばかりのあの映画より面白い。しかもフェリーニ作品が(こういうネタとしては場違いな)2時間を超える長尺だったのに対し、このウディ・アレンの映画が1時間半にまとめられているのも好印象だ。
中年男が列車の中で気が付くと、あたりは生気の無い老人ばかり。あわてて彼は列車を降りようとするが、出口が無い。そして列車は霧の中を進み、ゴミの山に到着する・・・・というシーンで、監督兼俳優のサンディ・べーツの新作は終わる。彼は名の知れた作家だが、最近の作品の評価はイマイチだ。なぜなら、サンディは大衆受けする娯楽作から離れて、芸術性を前面に出していこうとしているからだ。
ニュージャージー州で開かれた映画祭に出席するために会場のスターダスト・ホテルに向かったサンディは、ファンやマスコミの質問に答えながら、付き合ってきた女たちに対する想いに浸っていた。彼の作品に主演したドリーは理想的なパートナーかと思われたが、結局別れた。現在の恋人はフランス人のイゾベルだが、彼女はなんと人妻で、夫を捨てて映画祭の会場に子連れでやって来る始末。ところがサンディは席上で知り合った女性ヴァイオリニストのデイジーが気に入ってしまい、それを見たイゾベルは激怒する。
どこまでが劇中劇か分からない構成で、アレン扮するサンディの(いつもながらの)インテリぶった態度に閉口する部分もあるが、全編を通して観ればなかなかロマンティックな筋立てで飽きさせない。セリフの面白さは相変わらずで、何回も感心して頷いた(笑)。芸能界の裏側をユーモラスに明かしていくのも興味深く、関係者とのやり取りも皮肉が効いていて見せる。
現実と虚構が入り混じった展開はフェリーニほど大仰ではなく、ほどほどの線をキープ。それでいて作者の映画に対する愛情が横溢しており、しみじみとした感慨を覚える。終盤は“大仕掛け”が用意されているが、ワザとらしくないのも良い。ゴードン・ウィリスのカメラによる美しいモノクロ映像。ジャズの名曲がバックを彩る。シャーロット・ランプリングにジェシカ・ハーパー、マリー・クリスティーヌ・バローと共演陣も万全。シャロン・ストーンが本作でデビューを飾っているのも見逃せない。