(原題:MURDER MYSTERY)2019年6月よりNetflixで配信されたコメディ・ミステリー。本国の評判は良くないらしいが、個人的には大いに楽しめた。コロナ禍によって遠出もできず、漫然と家にいることが多かった時期に、こういう何も考えずに向き合えるお笑い編を観られたことは絶好の気分転換になり、実にありがたい。
ニューヨークの警官ニック・スピッツは、いい年なのだが未だ平巡査のまま。最近も何度目かの刑事任用試験に落ちてしまった。そのことを妻のオードリーに打ち明けられないまま、2人は念願のヨーロッパ旅行に出かける。飛行機の中でオードリーはファーストクラスへ忍び込み、大金持ちのチャールズと知り合う。その縁でニックとオードリーは、チャールズの船上でのパーティーに誘われる。
ところが席上で大富豪のマルコム・クィンスらが殺されるという事件が発生。早速名探偵気取りで捜査を開始するニックだが、現場を仕切るモナコ警察のドラクロワ警部補は、当日突然パーティーに参加した部外者のニック夫妻が怪しいとにらむ。さらに犠牲者が増え、とうとうニックたちは容疑者と断定されて警察に追われるハメになる。
動機も物的証拠もないニック夫妻が、訳ありのマルコムの親族たちを差し置いて疑われるのはおかしいし、展開も多分に御都合主義的なのだが、そこは本格的推理物とは一線を画したコメディ路線に作劇が振られているため、さほど気にならない。
何よりニックとオードリーのおとぼけ夫婦が最高だ。演じるアダム・サンドラーとジェニファー・アニストンは絶好調で、下ネタ中心のギャグで延々とボケまくる無双ぶりに“早く誰か突っ込んでやれよ”と笑いながら呟いてしまった。さらに、周囲の者たちがニックが刑事に採用されなかったにも関わらず刑事と称していることを、しつこく追求しているのも愉快だ。
序盤の御膳立ては本格ミステリーだが、次第にヒッチコック作品のような“追われながら事件を解決する話”がオフビートに展開してゆくあたりも上手いと思う。さらにニック夫婦だけではなく、他のキャラクターも濃い。それぞれに一発芸的な見せ場が用意されているあたりも周到だ。カイル・ニューアチェックの演出はスピーディーでフットワークが軽く、お笑い場面と活劇シーンを良い案配で並べている。
終盤のカーチェイスは見応えがあるし、まさかのオチから(ミステリー好きが喜びそうな)気の利いた幕切れまで、飽きさせることはない。ルーク・エヴァンスにジェマ・アータートン、テレンス・スタンプ、ルイス・ヘラルド・メンデス、ダニー・ブーンそして忽那汐里と、脇の面子も賑やかだ。モンテカルロからミラノ、コモ湖、サンタ・マルゲリータ・リーグレとロケ地は風光明媚な場所ばかりで、観光気分も存分に味わえる。