(原題:EXTRACTION)2020年4月よりNetflixで配信。かなり楽しめるバイオレンス・アクション巨編で、どうしてこれがネット配信のみなのか理解しがたい。映画館のスクリーンで対峙したかったシャシンだ。「アベンジャーズ」シリーズでお馴染みのクリス・ヘムズワースとしても、当たり役の一つになることは必至だろう。
主人公のタイラー・レイクは、数々の修羅場を乗り越えてきた傭兵だ。今は裏社会からの危険な任務を請け負っている彼は、インドのムンバイを根城にしているマフィアのボスの息子である中学生のオヴィを救出するという仕事を引き受ける。オヴィを誘拐したのはバングラデシュの麻薬組織の親玉アミールで、タイラーは早速ダッカにある敵のアジトに向かう。無事にオヴィを連れ出すことに成功したタイラーだが、アミールは町のギャング共はもちろん軍や警察も牛耳っており、雲霞の如く押し寄せる敵の大軍の攻撃に晒される。ジョー・ルッソ(脚本も担当)によるグラフィック・ノベルの映画化だ。
正直言って、タイラーの内面は深くは描かれていない。彼の仲間の正体も不明だ。大きな屈託があって傭兵になったことは窺われるが、その背景は示されず、身体中に刻まれた傷が彼の過酷な人生を暗示しているだけだ。しかし、本作ではそれが大きな欠点にはならない。まさにアクションがキャラクターを語るというか、主人公のニヒルな表情と程度を知らない大暴れが、タイラーの存在感を画面上に叩き付ける。
観る者をアクションでねじ伏せてしまう思い切りの良さが、存分にアピールしている。とにかくタイラーの仲間とオヴィ、そして途中から味方に付くサジュ以外は、出てくる連中は全て敵なのだ。殺しても殺しても、次々と敵は湧いて出てくる。それでもめげずに卓越した身体能力で相手をなぎ倒してゆくタイラーの頼もしさに、驚き呆れるしかない(笑)。
活劇の段取りはそれぞれよく考えられており、特に激しいアクション場面が連続するにも関わらず、カメラワークは長回しを多用するという大胆さには唸ってしまった。これがデビュー作になるサム・ハーグレイブ監督の仕事ぶりはパワフルそのもので、最初から最後まで弛緩することはない。
ヘムズワース以外のキャストでは、傭兵の女リーダーを演じるゴルシフテ・ファラハニが相変わらずの美貌を披露して好印象。ランディープ・フーダーやデイヴィッド・ハーバー、パンカジ・トリパティといった脇の面子も良い。ダッカの街の遠景も魅力的だ。続編製作決定とのことで、楽しみに待ちたい。