(英題:THE DRUG KING )2018年作品で、2019年2月よりNetflixで配信された韓国映画。題材は興味深く、キャストも大熱演なのだが、話自体は捻りが無く、どこかで観たようなモチーフも目立つ。もっと脚本を練り直し、良い意味でハッタリを効かせるのが上手い監督を起用すれば、けっこう盛り上がったのではないだろうか。
70年代初頭の釜山で密貿易の下働きをしていたイ・ドゥサムは、覚醒剤を売りさばく闇ルートに関与することによって、裏社会で頭角を現してくる。台湾から原材料を仕入れ、韓国で製造し、日本の暴力団に流すというビジネスモデルを確立すると共に、それで得た金で各方面に“根回し”を実行。また、表向きには国と地域に貢献する善意の実業家として高い評価を受ける。
ところが、自分の正体を知る中央情報部の幹部を始末したことがきっかけで、次第に自分がクスリに溺れるようになってしまう。70年代末には韓国の政情は不安定になり、ドゥサムの商売も見通しが暗くなる。一方、麻薬組織撲滅に燃える釜山の地方検事キムは、執拗にドゥサムを追いかけていた。
事実を元にしたシャシンだということだが、イ・ドゥサムという人物は実在していないし、モデルになった者もいないらしい。当時の不穏な空気の中では、たぶんこんなことも起こり得たのだろう・・・・という憶測で作られたようだ。まあ、それでも面白ければ文句は無いのだが、これがどうにも盛り上がらない。
成り上がっていくドゥサムは、その行程がどうにも不明瞭かつ御都合主義的だ。偶然に取引の場に居合わせてノウハウを吸収し、何気なくシャブ作りのエキスパートと知り合い、自身もいつの間にかクスリ作りの名人になっている。実業家としての“昼間の顔”をどうやって築き上げたのか不明で、彼の家族関係も詳しく描かれない。
金子正次監督の「竜二」(83年)の中に“シャブはやるもんじゃなくて、売るものだ”というセリフがあるが、ドゥサムの後ろ向きの運命はその原則を破ったからに過ぎず、別に意外性は無い。クライマックスはブライアン・デ・パルマ監督の「スカーフェイス」(83年)との類似性が指摘されるところだが、インパクトはあれに及ばず。ラストも何だか拍子抜けだ。ウ・ミンホの演出は粘りが足りない。
しかし、それでも主演のソン・ガンホのパフォーマンスには圧倒される。中盤以降の主人公が自暴自棄になってゆく様子など、凄いとしか言いようがない。ファム・ファタール的な扱いの女に扮したペ・ドゥナも良い。可憐な役が多かった彼女も気が付けば中年に達しており、こういう悪女もさらりと演じられるようになったのは感慨深い。
検事役のチョ・ジョンソクは“演技の上手い東出昌大”みたいだが(笑)、求心力のある仕事ぶりだ。そして、当時の日本との関係性が強調されているのは面白い。ただし、日本が舞台になったパートは頑張ってはいるが、けっこう珍妙。特に、出てくる札がすべて千円札だったのには苦笑した。