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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「思秋期」

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 (原題:TYRANNOSAUR )不器用な中年男女が知り合い、互いに癒やされ、心の硬い殻が少しずつ解れていくというヒューマンドラマ風の設定ながら、キャラクター造型の甘さが感銘度をかなり薄めている。俳優として知られるパディ・コンシダインの劇場用映画の監督デビュー作だが、やはり初演出というのは未熟さが前面に出てしまうこともあるのだろう。

 イギリスの田舎町(ロケ地はヨークシャー州西部のリーズ)に住む失業中のジョセフは妻を亡くし、子供もおらず、唯一の友人はガンで余命幾ばくも無い。日々酒に溺れ、周囲の者に手当たり次第にケンカを売る。ある日彼はケンカ相手から逃げる途中、街のチャリティ・ショップに転がり込む。ジョセフはその店で働くハンナと出会うが、彼女もまた孤独で満たされない毎日を送っていた。同病相憐れむかのように二人は接近するものの、ハンナの複雑な事情はジョセフを新たなトラブルの矢面に立たせることにもなる。

 泥酔し激昂したジョセフが愛犬を蹴り殺すシーンから始まり、続いて飲み屋等での悪態や大立ち回りが次々と映し出される。韓国映画「息もできない」の主人公と同じように、彼もまた“暴力でしか他者とコミュニケート出来ない人間”なのかと一度は思ったのだが、どうも違うようだ。それどころか行動がチグハグであり、何だかハッキリしない奴のように見える。

 たとえ愛犬でも鬱憤晴らしのためには始末してしまうほど感情がささくれ立っていながら、近所の子供を虐待する連中に対しては妙に及び腰だ。そういえばケンカを吹っ掛ける相手も、あまり強そうには思えない(まあ、あとでオトシマエは付けられるのだが ^^;)。要するにこの男、ただの弱虫ではないのか。そんなジョセフがいくら亡き妻の思い出を滔々と語っても、噴飯物である。

 ハンナは上層階級中心の地域に住んでいるが、夫はとんでもない暴力野郎で、日々虐待に苦しめられている。そんな彼女が心の支えにしているものは信仰である。くだんのチャリティ・ショップも教会が運営しているものだ。しかし、ジョセフと知り合うことにより信仰など役に立たないことに気付かされるという設定だ。

 この夫の言動は完全に常軌を逸していてまるでサイコパスなのだが、こんなのにズルズルと付き合っている彼女に対しても共感は抱けない。単に“愚かな女”としか映らない。こんな、人間としての深さが感じられない二人が出会って慰め合っても、こちらは“関係の無い話”という印象しか受けないのだ。

 少しでも観る側の琴線に触れるように、キャラクターを練り上げて欲しかった。私なんか、最後まで異常な行動を取る暴力夫にスポットを当ててホラー映画として作った方が面白いのではないかと思ったほどだ。

 主演のピーター・ミュランとオリヴィア・コールマンは力のこもった演技を見せるが、筋書きがこんな具合では空回りしていると思われても仕方が無い。ラストの扱いも、何となくしっくりこない。残念ながら、個人的にはあまり価値を見出せない映画であった。

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