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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「マイルス・デイビス:クールの誕生」

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 (原題:MILES DAVIS: BIRTH OF THE COOL)2019年作品。ジャズ界の最重要人物と言われるマイルス・デイヴィスの生涯を追ったドキュメンタリー。作家性を前面に押し出した作劇ではなく、淡々と事実だけを積み重ねた内容なのだが、けっこう惹き付けられた。もっとも、マイルス自身がカリスマ性の塊みたいな人物なので、画面の真ん中にいるだけで絵になるのだ。映画製作に当たっての余計なケレンは不要だろう。

 マイルス・デューイ・デイヴィス三世は、1926年にイリノイ州オールトン生まれる。家は裕福で、ニューヨークに出てジュリアード音楽院に進むが、その突出した個性と才能は伝統ある学校教育の枠に収まるものではなかった。ジュリアードを中退して当時の有名なジャズ・プレーヤーと次々に共演し、めきめき頭角を現してくる。



 よく“天才に人格者なし”と言われるが、マイルスの場合も同様だったらしい。気難しく、女性遍歴も派手で、幾度となく酒やクスリに溺れた。しかし音楽に対しては妥協を許さず、ひとたびトランペットを手にすれば、天翔るようなパフォーマンスを披露し聴く者の度肝を抜く。

 また天才というのは“一度やったことは二度やらない”とのポリシーを持っているようで、そのサウンドは時代が進むと共にフレキシブルに変化する。映画はそれらの過程を時系列に沿って描き、実に分かりやすい。彼自身の独白を中心に、ロン・カーターやジュリエット・グレコ、ハービー・ハンコック、クインシー・ジョーンズ、ウェイン・ショーターといった彼と同時代を生きた者たちの証言がマイルスの生き方や音楽的スタンスを肉付けしていく。このやり方は正攻法で、誰が観ても納得出来る。

 演奏シーンはダイジェスト版がいくつも挿入されるが、うまく配置されており物足りなさを感じない。特に興味深かったのがルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」(1958年)のサウンドトラックを吹き込む場面だ。新進気鋭の映画作家と音楽界の異能が出会い、火花を散らす様子は圧巻である。

 監督のスタンリー・ネルソン・ジュニアは場をわきまえていて、勝手な講釈を決して差し挟まず、対象及びその周辺の事物を掘り下げることに腐心しており、好感が持てる。ただ正直なところ、個人的にはマイルスのディスクは傑作「カインド・オブ・ブルー」(1959年リリース)以外はあまり肌に合わない。それでも、多くの有望なミュージシャンを見出したことは、巨匠の名に値すると思う。

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